「さすがに世界一と称されるだけの事はあるわね。」
目的地イーフォに到着したアルたち一行。 ルミスの神殿としては世界一の規模を誇るという神殿を前に感嘆の声を上げるリーファ。
「アタシたちって月見たかなぁ?ほら、イーフォには月を見てからって言うじゃない?」
リノは真剣に悩んでいるようだ。 『えと、昨日は曇ってたでしょ〜…』などとブツブツ言っている。
「あれは気構えの問題なんだよ。実際に月を見ないと来ちゃいけない、って訳じゃない。」
アルは相変わらず生真面目な返答を返している。
先程から一行の話題の中心になっている建物。 その正体は‘月と慈愛の女神ルミス’の神殿である。 イーフォのルミス神殿は建物も信者数も信仰の篤さもルミス神殿の中で並ぶものなしと言われている。
だからこそ、人々はこう言うのだ。
『イーフォに行くならまず月を見てからにしなさい。』
と。
これから月の女神の聖地に行くのだと肝に命じておきなさい、という意味を込めて。
「そか。それにしてもおっきいねぇ。」
「そうだな。うちの神殿も大きいと思ってたが…。」
アルは‘太陽と正義の神アロン’の神官だ。 エルストイにあるアロン神殿も決して規模が小さい訳ではない。 しかし、‘イーフォのルミス神殿’は特別なのだ。
「さて、と。サラさんってどんな人かしらね。」
リーファが呟く。 彼ら一行はこのルミス神殿にいるサラという人物に書状を届けにきたのだ。 依頼者は彼女の父親、エルストイの街富豪マクシミリオン卿だ。
「さあね。サラという人がどういう人でも関係ないさ。俺たちは書状を届ければいい。」
このガチガチの力を抜く為の栓がどこかについていないかしら、とたまに思うリーファである。
「まぁまぁ。行きましょ?アタシこういうとこ苦手だから、アルよろしく。」
リノは(リーファもだが)堅苦しいのが苦手なので自ずとアル頼みになるのだ。 その為、実際がどうかは別として名目上のリーダーはアルという事になっている。
「そうだな。行こう。」
中に入り神官とおぼしき人物に声をかけるアル。
「サラ・ド・マクシミリオン様という方に書状を届けにまいりました。」
待たされる事しばし。 現れたのは柔らかな物腰の女性だった。
「ご苦労様でした。」
穏やかな笑みを浮かべながら書状を受け取る。 しかし、書状を読み進むうちにその表情は険しいものへと変貌していった。
「あなた方はこの書状の中身を知らされていますか?。」
サラが尋ねる。
「いえ。」
『中身は聞くな、とにかく届けろ。』
今回に限らず冒険者に書状を頼む者たちは決まってそう言うのだ。 わざわざ冒険者に頼むからには訳ありに違いない。
「そうですか。お父様ったら。あなた方に危険が及ぶかもしれないというのに…。」
サラは沈痛な面持ちになる。
「危険って命を狙われたりするって事?それなら何回か襲われたけど。」
リーファが事もなげに言う。
「‘冒険者’ですから。危険は覚悟の上です。返事を持ち帰るよう、仰せつかっているのですが?」
冒険者が書状を届けるというのはそういう事だ、とアルは言っているのだ。
「‘持ち帰る’ように言われたのですか?そして内容を確認するつもりもないのですね?わかりました。用意してきましょう。」
その念押しの意味がわかるまでそう長くはかからなかった…。
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