「随分賑やかねぇ。」
小さな村トルシュに辿り着いた冒険者一行。 人に溢れ露店が立ち並ぶ姿に驚き長身の女戦士が声を上げる。 最近、その活躍ぶりから‘シルバーウィンド’の通り名で呼ばれるようになってきたリーファである。
「一体、なんの騒ぎです?」
絵に描いたような聖職者の格好をした男が道行く人に尋ねる。 彼の名はアル・フィモ。 ‘太陽と正義の神アロン’に仕える神官だ。
「うんうん。なんかのお祭り?」
質問に追加をしているのは黒くピッタリとした服装に柔らかい革鎧、腰に短剣という冒険者としては軽装の女性。 盗賊リノ・ナッカーである。 ちなみに彼女は少しばかり古代語魔法も使える。
「南にサーマスって街があるんだがね。もうすぐ闘技大会が開かれるんだ。4年に一度、剣豪を決める大会さね。」
道行く男はにこやかに答えてくれる。
「剣豪?」
興味を示したのは硬い皮の鎧を着た戦士。 ルーツ・ザ・クリムゾンファイアである。
「あぁ。なんでも今回は現剣豪のディプレスが出るらしくてね。現剣豪から直接剣豪の座を奪おうと各地から腕自慢が集まって来てるんさね。街を溢れてこんな田舎の村にまで人がいっぱいさぁ。」
男は忙しい忙しいと言いながら足早に立ち去って行った。 村は活気づいていて皆忙しそうだ。
「剣豪ディプレスが来るんだとさ。ぜひ手合わせしたいもんだ。」
ルーツは本気とも冗談ともつかない調子でそう言った。
「ルーツ!俺たちは依頼を受けてるんだ。寄り道してる暇なんてないんだからな。」
生真面目というか堅物というか…。 アルはとても一本槍な男だ。
「分かってますよ。言ってみただけ。」
肩をすくめるルーツ。
彼ら一行は大切な書状を届ける為、東のエルストイから西のイーフォまで旅をしている。 トルシュの村はその行程上にあり、たまたま通り掛かっただけだ。
「宿を取るのは無理そうだな。日が落ちるまで、先へ急ごう。」
と、アル。
「最悪、野宿ね。ま、いつもの事だけど。」
と、リーファ。
「いーんじゃない?でも、なんか食べてこうよぉ。」
と、これはリノである。
「賛成だ。」
ルーツは静かにそう言うとさっさと歩いて行ってしまった。 後に続く3人。
『なんか変ねぇ。』
リーファは小首を傾げた。
一行の旅は続き、トルシュからさらに三日ほど西に進んでいた。 ここは、ラダオンという街だ。
「ねぇ、ルーツ。なんか最近苛々してない?」
宿として選んだ‘北鯨亭’で食事をしつつリーファが尋ねる。
「そんなこたぁないぜ?お嬢ちゃん。」
答えにいつものキレがないような気がした。
「そう?なんか変だけどね?」
突っ込むリーファ。
「お嬢ちゃんには敵わないな。ちょいと悩んでるのさ。」
両手を広げる仕草。 ルーツは身振り手振りが大仰だ。
「俺はね、お嬢ちゃん。大きく稼いでみたいのさ。こんな仕事で小銭を稼いで何になるのか、って…。」
「なんだと!」
まだ話が終わらないうちに、アルが割って入る。
「こんな仕事ってなんだ!大事な書状を届けるんだ。立派な仕事だろう?」
アルは自分の仕事に責任と誇りを持ち、堅実にこなしていくタイプだ。 大きな仕事で一山当てたいと望むルーツとはいつも反りが合わない。 特に今回は街の有力者からの依頼であり、報酬も決して少なくはない。
「ちょっと待ってくれ。まだ話が終わってな…。」
面食らうルーツ。
しかし。 ここ数日、何かと言うと不平不満を漏らすルーツに対して苛立ちを積もらせていたアルの剣幕はおさまらない。
「気に食わないなら、他を探せばいいだろ!」
その言葉が全てだった。
「分かったよ。」
静かに店を出ていくルーツ。
「ちょっとルーツ!アル…?いったいどうしちゃったの?早く止めないと!」
うろたえるリーファ。
「価値観の違いさ。ついて行きたいなら行ってくれればいい。」
アルは動かない。
「アタシはいつもアルについて行くだけさ。」
リノの瞳はその決意の強さを物語る。
「…。あいつなら独りでもなんとかなるでしょ。」
戦闘力を持たない二人を放って行く事はリーファにはできなかった。
『ごめんね。ルーツ…。』
ルーツは東南に向かっていた。
「すまない、みんな。アル、手間をかけさせたな。」
ポソリと呟きを漏らす。
『剣豪になんてそう簡単になれるもんか!バカヤロウ…。なれるもんなら、なってみやがれ…。』
アルの心が震えていた…。
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