「サラさん、大丈夫?」
馬上で深く考え込んでいるサラにリーファが声をかける。
「ギルドが見つけるって言ったんだから絶対見つかるよ。」
リノは自信満々である。
「そうですね。」
優しく笑うサラ。 だが強く憂いを含んでいる。
「サラさんが考え込んでるのはその事じゃないだろ?」
生真面目一本槍のアル。
「あぁ、もう。デリカシーのない男ね。」
リノとてそのくらいの事はわかっているのだ。 野盗‘草原の鷹’の頭領が語った真相がサラを悩ませている。
「俺たちはあんたの親父さんに頼まれてやったんだ。詳しい事は知らねぇ。本当だ。」
頭領がデタラメを言っているようには見えなかった。
「ねぇ?なんか騒がしくない?」
エルストイの街に戻ってきた四人。 開口一番、リーファの台詞だ。 確かに辺りが騒然としている。 アルが道行く人に声をかけた。
「なにかあったのですか?」
「なんでも行方不明になってたマクシミリオン家のお嬢様二人が突然帰ってきたそうだ。元気に戻ってきたらしくてな。よかった、って話をしてたのさ。」
どうやらギルドはうまくやってくれたようである。
『ね?』と親指を立てるリノに複雑な笑顔を返すサラである。
「私はお父様と直接話をしてきます。皆さんは‘翼竜の翼亭’で待っていてください。」
サラは父マクシミリオン卿の元へと急ぐ。
「お父様!」
「なんだ?騒々しい。ランスなんぞ持ち込みおって…。」
「お話があります。」
「ちょうどいい。わしもお前に話がある。クレアとキーナは帰ってきた。」
「はい。」
「だが、心労の為に寝込んでいるのだ。」
「そんな…?街の人は元気に帰ってきたと言っていました。」
「わしより街の人間を信用するというのか?ふん。まぁいい。婚儀は明日だ。お前しかおらん。用意しておくように。」
そのまま戻ろうとするマクシミリオン卿。
「待ってください。約束が違います。」
「一週間待てというから待っただろう?そうでなくともお前が連れ戻した訳ではないからな。」
確かにそうだ。 サラは姉たちを連れ戻すから一週間待って欲しいとだけ言っていた。 あの時は慌てていたのだ。
「それにな。‘あの方’はお前でなければならないと言っている。おとなしく言う事を聞くのだ。」
‘あの方’と言ったマクシミリオン卿の顔が大きく歪んで見えた。
「何者です!」
サラがランスを振るう。 突然、まばゆい光が降り注ぐ。
「わしは…一体…?」
「お父様!どいてください!」
マクシミリオン卿の背後に弾き出された邪悪なる精神の精霊。 サラのランスの光が襲う。
「く…。逃がした…?」
手応えはなかった。
「お父様…。大丈夫ですか?」
「あぁ。」
力無く答えるマクシミリオン卿。
事の発端は疑心暗鬼。 この時期だからこそ付け込まれたのだ。 怪しいのは…。
「お父様?私の婚儀の相手というのは…?」
今さっきまでその話をしていたというのに。 マクシミリオン卿は何も覚えていなかった。
「みなさん。今回は本当にありがとうございました。」
三人との待ち合わせ場所‘翼竜の翼亭’。 姿を見せたサラはまだ鎧姿のままだ。
「家には戻らないんだね?」
リーファが尋ねる。
「えぇ。お父様は何者かに操られていたようです。私は真相を探す旅に出ようと思っています。」
「当ては?」
リーファの問いにゆっくり首を左右に振るサラ。
「俺も一緒に行きます。」
「え?」
驚くサラ。 他の二人は反応しない。
「アルならそう言うと思ってたよ。アタシはついて行くさ。」
リノの答は決まっている。 「リーファも行くでしょ?」
「そうね…。」
この時。 リーファは『行ってはいけない』という声を聞いたような気がした。 自分がそう思ったのか、誰かの声だったのか。 リーファはその声に従う事にした。
「私は残るわ。気になる事があるの。」
旅の途中、黒い召喚術士の噂も聞こえていた。
旅立つ仲間たちを見送って、リーファはこの地で出会いと別れを繰り返す。 まるで誰かを待っているかのように。
そして白の聖戦士は新たな物語に向けて歩き始めた…。
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