「ショウ!おいで!」
上空を旋回していた使い魔を呼び寄せるカムリ。 目の前では戦士二人の対峙が続いている。 魔法をろくに使えない自分が入る隙などない。 ならば、出来る事をやっておかなくては。
「老師を呼んできておくれ。と言ってもケチな老師の事だ。ただでは動かないな。これを持ってお行き。」
カムリは使い魔に黒い石の指輪を持たせた。 先程まで闇の精霊を封じていた黒い石は今となってはただの宝玉だ。 カムリにはもう用がない。 しかし、精霊を封じられる程の純度を持つ宝玉である。 安かろう筈がない。
「いくらなんでもこれで足りるだろうな…。」
一抹の不安を抱えながら使い魔を解き放つ。
『緊急だから。早く来てくださいよ、老師…。』
「あんたとは闘りあいたくないけど、今は引けないんだろうね?」
リーファの声からは『出来れば引いて欲しい』という願望が感じられる。
「今は用心棒だからな。実入りもいい。引く事は出来ないねぇ。」
「なら、闘るしかないね!」
リーファは決意を固め、剣を握る手に力を込める。
「随分とまた、たくましくなったもんだねぇ。シルバーウィンドのお嬢ちゃん。」
赤い鎧の戦士は相変わらずの軽い口調である。 ただし、口調とは裏腹に眼光は鋭く一片の隙も見当たらない。
「お嬢ちゃんて…。あんたとはそんなに違わないでしょうが。」
リーファは忌々しい、と言わんばかりである。 昔から、こいつはこういう奴だ。 リーファは思う。 一緒に旅をしていた頃もそうだった。 炎の魔法戦士、‘ルーツ・ザ・クリムゾンファイア’。 かつてリーファとパーティを組んだ事がある戦友だ。 いや、戦友だと思っていた。 調子はいいが腕は立つ。 ただ、金の為ならなんでもやる男だ。 金の事でもめてパーティを抜けていった…。
「一つでも年上は年上。うやまってもらわないと、な!」
‘な’の一言を気合いに変えて、赤の戦士が斬りかかる。 受けるリーファ。 力・技・速度共に…。
「互角だな。」
剣技に関しては詳しくないカムリが見ても、実力は拮抗している。 互いに魔法を使っている余裕など無さそうだ。 一進一退の攻防が続く。
「そんなに強かったっけ?お嬢ちゃん。」
少し息を切らせてルーツが言う。
「あんたこそ。」
リーファも同じだ。
「ちょっと本気を出さないとな…。」
ルーツがそう言うと剣の刀身から陽炎が立ち上ぼり始めた。
「あんた、それは…。」
見る見るうちに熱気を帯びていく剣。 リーファは驚きを隠せない。 かつての戦友に向かってその剣を振りかざすとは思わなかった。
それはルーツ自慢の剣。 炎の精霊剣‘ヒート・ブレード’である。 炎の精霊の力が宿ったその剣は灼熱の刀身で触れた物を熔かし斬る。
「強い奴とは本気で闘る主義でね。お嬢ちゃんの‘フェザー・ブレード’とどっちが強いかねぇ?」
リーファの持っている剣には風の精霊の力が宿っている。 大きく重いその剣だが、持ち主と認められた者だけは羽根のように軽く操る事が出来る。 そして刀身に纏った真空波は触れた物を鋭利に斬り裂くのだ。
「どっちが強いかなんて興味ないけどね…。」
リーファは諦めたかのように剣を構え直す。 刀身には真空波が纏われていく。
風と炎。 激突の時が迫っていた…。
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