『なんで気付かなかったんだ…?』
実はまだ続いているグランの話にうんざりしながらカムリは意識を使い魔から自分に戻す。
『リーファにちょっかい出されてやっと気付くなんて…。』
リーファに気付かされたのが嫌なのでは無い。 自分で気付けなかったのが悔しいのだ。 カムリはそういう男である。
使い魔と術者は一心同体。 意識を集中しさえすれば使い魔が使える事は分かっていた筈なのに…。
ともかく。 魔法の力で繋がっている使い魔と術者。 使い魔を使えるという事は、全ての魔力を封じられた訳では無いという事だ。
『魔力の新たな発動を押さえ込まれたって事か…?』
それならば手はある。 一筋の光を見いだし軽く微笑む。 どうやらトロル退治の依頼も罠であったような事を優男が朗々と語りあげているが、もうそんな事はどうでもいい。 カムリは自分の指に数多く嵌まっている指輪のうち、黒い石がついたそれを擦りながら言葉をかける。
「力を貸してくれないか?前に助けてやっただろ?次はこっちが助けてもらう番だ。」
すると指輪から黒い煙りがモクモクと噴き出し、人のような形を創りだしていく。
「ふん、やっと出番か。これ一回助ければ自由になれる。そういう契約だな?」
人型になったそれは大仰な態度とは裏腹に手の平に乗る程の大きさでしかない。 カムリが「あぁ、そうだ」という前に笑い声が巻き上がる。
「わははは!大層な登場をするから何かと思えば。これはこれはようこそ、小さなお客人。どうやって魔法を使ったのか知らんがそれが限界か?」
どうやら自分が作らせた護符の特性も把握していないらしい。 それにしても、よく喋る男だ…。
「バカにしてるのか?」
『小さなお客人』と言われムッとした様子の精霊。 カムリが呼び出したのは闇の精霊シェイドである。
「気にするな。お前の力を見せてやればいい。」
なだめようとしたカムリにシェイドはニヤけながら応える。
「あんたまでバカにするのか?まぁ、いい。負の感情は俺の力の源。精々バカにするがいい。」
大きくニタリと笑いシェイドは続ける。
「こんな簡単な仕事で自由になれるなんてツイてるねぇ。」
それを聞いて面白くないのがグランである。
「ここから抜け出すつもりか?簡単だと?やってもらおうじゃないか。ただし私のオーガ達は手強いぞ?」
言うと同時に扉が開く。 中からワラワラとオーガが現れる。 数十匹いるだろうか? 取り囲まれるカムリとシェイド。 それでもシェイドのニヤけ顔は元には戻らない。
「数がいればいいってもんじゃないだろ?」
次の瞬間。 辺りは闇に覆われた。 一片の光さえ通さぬ真の闇。 闇の精霊が作り出す本物の闇である。 夜行性のオーガといえども全く光が無ければ物を見る事は出来ない。 そこを自由に動けるのはその闇の作成者しかないのだ。
シェイドに導かれ外に出たカムリは慌ててリーファを探す。 時間が無い。 追っ手はすぐに来るだろう。
リーファを見つけ出したカムリは急に力が抜けるのを感じた。
「さっきから体が重いと思ったら…。」
そこには使い魔ショウを枕に気持ち良さそうに眠りこけている女戦士の姿があったのだ。
「リーファ、起きるかなぁ?」
不安そうに呟くカムリだった…。
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