「待たせたな。」
癪に障る事この上ない言い方。 まぎれもない、超獣使いグランその人である。
口の中いっぱいに苦虫を頬張ったような気分になりながらも平静を装うカムリ。
「初めてお目にかかります。トロル捕獲の件でお話をいたしたく…」
かしこまって挨拶を始めるとそれを遮ってグランが話し始めた。
「堅苦しい挨拶はいい。よく訪ねて来てくれた。それに初めてではないだろう?」
「いえ。お目に掛かるのは初めてですが?」
妙に胸騒ぎを覚えながら努めて冷静な口調で返答をする。
「ははっ!とぼけなくてもいい。」
グランの態度に考え込むカムリ。
『どこまで知ってる…?』
何かを掴まれているのは間違いなさそうだ。
『いざという時のために逃げる準備をしておいた方がいいだろうか…?』
身の危険を感じ防御の呪文を唱えようとしたカムリはそこで初めて自分の身に起こっている異変に気付いた。
「な…。呪文が…。」
「気付いたか?貴様に渡した護符は特別製でな。もう呪文は使えんよ。」
慌てて護符を外そうとしても体にピッタリ張り付いて外れない。
「無駄だよ。諦める事だ。」
カムリには何が起こったかわからない。
「‘カムリ・ザ・ブラックミスト’。少し目立ち過ぎたな?」
「いったい何の事を言っておられるのか…。」
「まだとぼける、か。貴様がこの屋敷の事を嗅ぎ回っていたのは知っていたよ。逆にいろいろ調べさせてもらった。レミウス候に歯向かうものがどうなるか、身をもって教えてやった筈だがな。村が無くなって余程辛かったか?」
『く…。』
歯が折れそうな程、強く食い縛る。
『とにかく、なんとかしなくては…。』
まだグランの話は続いていたがカムリの耳にはすでに届かなくなっている。
『しかし、魔法が使えないんじゃどうしようもない…。』
その頃、屋敷の外では魔法戦士の少女が退屈を持て余していた。
「暇だな〜。私、待ってるのって苦手…。まだしばらくかかりそうだし、ちょっと遊んでようかな?」
そう言うと、ついと空に飛び立ってしまった。
「あ!こんな所にフクロウ?珍しい〜。」
飛んでいるフクロウを見つけ後を追う。 そして、あっという間に捕まえてしまった。
「つっかま〜えた!黒いフクロウ?ほんとに珍しいねぇ。連れて帰ってペットにしようかな?」
「痛いな。やめてくれよ…。」
リーファは慌てて辺りを見回す。 しかし、ここは空の上。 人などいる筈もない。
「このフクロウが喋ったの…?」
「そいつはショウ。僕の使い魔だよ。」
声はあきらかにフクロウからだ。 しかし、この声は…。
「カムリ?あなたなの?」
驚いた声で尋ねる。
「あぁ、そうだよ。しかし、驚いたな。使い魔は大丈夫なのか?」
「え?私、そんなにきつく抱いてないよ?」
自分が傷つけたのだろうかと心配するリーファ。
「あぁ、ごめん。そういう事じゃないんだ。」
「じゃあ、どういう事?」
リーファには事態が全く飲み込めない。
「実はドジって捕まって魔法使えなくなったんだけど、使い魔は使えそうなんで驚いてた。」
緊迫感のかけらも無く、ただ飄々と説明をするカムリ。
「え!?捕まったの!?魔法使えないの!?なんで捕まったの!?どうしてそんな事になったの!?」
矢継ぎ早に質問が飛ぶ。
「説明は後でするよ。ありがとう。」
しかし、そう言ったきり黒いフクロウは喋らなくなった。
「なんなのいったい!?ありがとうってなに・・・?」
リーファの問い掛けは虚しく空を彷徨っていった…。
|
|