「超獣使いグラン殿にお目通り願いたい。」
つかつかと歩み寄りカムリは門番にそう告げた。 先程の悶着など何処吹く風。 というよりも、ひょっとして忘れているのでは?とさえ思わせる。
「如何なる用件か?」
多少面食らいながらも応対する門番。
「トロル捕獲の件でカムリが来たとお伝えいただきたい。」
「しばし待たれよ。」
門の中へと入って行く門番。 魔法障壁に護られたこの屋敷にとって門番はただの御用聞きにすぎない。
『なぜ門番は魔法障壁に邪魔されない?』
カムリは考える。 何か秘密がある筈だ、と。 その秘密を掴むのが第一だ。 カムリはまだ屋敷の中に入った事はおろか、超獣使いに会った事さえない。
いや、正確には会った事はある。 忌々しい記憶として、今も心に深く刻み込まれている。 だが雇主としての超獣使いには会った事がないのだ。
会える好機が巡って来たのは数日前。 馴染みの冒険者の店での事。 喋る金色の剣がある店『黄金の剣亭』に舞い込んだ一つの依頼。 よく喋る金色の剣に対して無口なマスターが黙って張り出した掲示には、こう書かれていた。
『トロルを生け捕りにした者に金100G』
その金額も、もちろん目に止まった。 どうしてもお金がいるというのもまるっきりでまかせではない。 召喚術士は何かと入用なのだ。 100Gといえばしばらくは遊んで暮らせる金額だ。 だが、手に入れたとしても大半はすぐに使ってしまうだろう。 しかし、何よりも依頼者の名を見てこの仕事を引き受けると決めたのだ。
依頼者の名はグラン。 カムリにとっては忘れる事の出来ない名である。
10年前のあの日。 村に攻め入ってきたモンスターの中にいた厭味ったらしい顔をした優男。 そいつは笑い、叫びながら村を破壊していった。
「わ〜はっはぁ!レミウス様に逆らう者がどうなるか、とくと思い知るがいい!我が名はグラン。よ〜く覚えておけ!」
忘れる筈がない。 許せる筈など、ある訳がない。 その名を確認し、怒りに身を震わせた。 この好機を逃すわけにはいかない。
マスターに声をかけると依頼に来た従者がまだいるという。 会ってみると話は意外な程すんなりと決まった。 報酬が成功報酬なのだから当たり前なのかもしれない。 自分以外にも捕獲に携わる者はいるのだろう。 だとすれば、なんとしてでも一番に捕らえなければならない。 すぐに行動を起こして、やっとトロルを追い詰めた所に幼馴染みが現れたのだ。
もちろん彼女を責めるつもりはない。 ただ次のトロルを探している時間があるのかどうか。 確かめなければならなかった。
『ちょうどいい。どうせここには来なければならなかった。』
考え事をしていると門番はすぐに戻ってきた。
「お会いになられるそうだ。これを着けてついて来られよ。」
手渡されたのは一枚の護符。 いくつもの宝石がはめ込まれていて首から下げれるようになっている。
「これは…?」
「それを着けなければ中には入れん。この屋敷は魔法の壁で護られているのでな。」
『これか!』
門番にはさも初めて聞いた風に相槌をうちながら内心ほくそ笑むカムリ。
『これで中に入れる!』
歩き始めた門番を追いながら護符を身に着ける。 少しばかりの違和感…。 浮かれたカムリには気付きようがなかった。
通された先の部屋。 どうやら謁見の間であるらしい。 調度品まで厭味だと、カムリは思った。 顔に出そうになるのを必死にこらえる。 グランを待ちながら、あれこれと作戦を考える。
『先ずは気に入られなくてはな。』
あの厭味ったらしい顔を思い浮かべると虫酸が走る。 しかし、標的はヤツだけではない。 情報収集が必要だ。
『うまくやるさ…。』
決意を固める黒服の召喚術士は、謁見の間でこれから起こる事をまだ知らない…。
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