「まったく。なんであの子はあんな子に育っちゃったのかな?」
まだカムリがリーファの背中を見送っている頃。 リーファは1人歩きながら呟いていた。
「村の事、どうでもいいなんて・・・。」
10年前、リーファ達の村は突然モンスターに襲われた。 レミウス侯にたて突いたとして見せしめにされたのだ。 ちょうどタイミングも悪かった。 レミウス侯がモンスター軍団を編成し自分の力を近隣に見せつけたいと思っていた頃だったのだ。
幸い死人は出なかったが壊滅した村を立て直す事は出来ず、村民は移住を余儀なくされたのだ。 今はもう、そのモンスター軍団の脅威からレミウス候に歯向かう者もほとんどいなくなっている。
「私は絶対に許さない!必ずこの手で・・・。」
しかし、どうすればいい? それが分からずいつも途方に暮れてしまうのだ。
実は一度正面から切り込んだ事がある。 門番など相手にもならないが、問題はこの屋敷自体にあるのだ。
『魔法障壁』
何人もの魔法使いによって幾重にも張り巡らされた魔法の壁に阻まれて侵入する事さえ叶わない。
「中にさえ入れれば・・・。」
中にはモンスター軍団や護衛がいるはずだが、今の彼女はそれらに遅れを取るつもりはなかった。
「とにかく、中に・・・。」
その思いはカムリも同じだった。
「隕石落としてもダメだったんだ。中に入るには取り入るしかないんだ。」
苦々しい呟きが洩れる。
リーファと同じように。 カムリも試してみた事があった。 隕石を召喚する‘サモンメテオ’という呪文である。
『魔王と呼ばれし魔界の王よ。今、隕石落として力を見せつけたりしたら崇拝者倍増じゃないですかね〜? みんな‘おぉ!魔王すげ〜!’ってなりますって。そしたら神々から政権奪えるかもしれませんよ?いつまでも落ちぶれてないで一回やってみましょう。そんくらいやんないとダメですよ?見せないと勿体ないです。力あるんですから。』
黒魔法の中でも最上級の破壊力を持つ呪文だ。 それでさえ、いとも簡単にはじかれてしまった。
「中に入る為なら、なんだってするさ。」
悲壮なる決意の呟き。
その呟きを聞いている者があるとも知らずに・・・。
昔の事を思い出し、再度決意を固めた後。 リーファは息をふぅっと吐き出した。
「それはそれとして・・・。」
なにやら考え込んでいる様子を見せた後、突然叫び始める。
「ほんとにもう!気になってしょうがないじゃない!」
そう言うと呪文を唱える。
『ねぇ、貴女は遠くの音も聞こえるのよね?あそこの彼の声も聞こえる?いいなぁ、なんか楽しそう。私にもその楽しみ分けてくれない?』
遠くの音を聞くことが出来る‘ウィンドトーカーズ’という呪文である。 聞こえてきたのは苦々しい呟き、悲壮なる決意。
「まったく。素直じゃないんだから・・・。」
くすくすと笑い出すリーファ。
「あんな所で話したのが悪かったのね。先に言っておいてくれればいいのに・・・。」
そして考え込む。
「さて、困ったな。どうやって戻ったらいいのかな?」
そこへカムリの声が聞えてくる。
「あのさ、リーファ。まる聞こえなんだけど・・・。」
「へ?」
『あぁ、しまった・・・。』と思ってみても、もう遅い。
‘ウィンドトーカーズ’は長距離間の空気の振動の劣化を無くす呪文。 こちら側の声も向こうに届いてしまう。
「あの、その・・・。ごめんね?」
「いいさ。先に説明しなかった僕が悪い。僕はとにかく雇主と会うから待っててくれないか?」
「分かった。そうする。」
どことなく、ホッとした様子のリーファ。
カムリは先程までとは違う鋭い目付きで門に向かって行った・・・。
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