「ねぇ、カムリ。ちょっと聞いていい?」
出来るだけゆっくりと話すリーファ。 こういう時は要注意だ。 カムリも心得ている。
「なに?」
無意識に防御の呪文で身を護りつつ穏やかに返事をする。
「どうしてこの屋敷を見て仕事を受ける気になるわけ?」
語気が少し荒くなってきている。 カムリはますます身を固めながら言い放つ。
「少しくらい問題があったって仕方がないじゃないか!お金になるんだもの。」
慎重に言葉を選べばいいものを、まともに突っ掛かっている。 まだまだ子供の証拠だ。当然、その態度はリーファの逆鱗に触れる。
「だからってねぇ。ここはダメよ、ここは!」
二人がいるのは、とある屋敷の前。 近隣諸国に名の知れたレミウス侯の屋敷である。 一旦雇主に顔を出すと言ったカムリにリーファがついてきたのだ。 普通、門に程近い所でこういう話はしないものだが、この二人にそんな常識は通じない。 案の定、門番が近付いて来る。
「貴様ら、何を騒いでいるんだ!?」
「あのねぇ、うちの村がどんな仕打ちを受けたか忘れたの?」
きっちり門番を無視して話を続けるリーファ。
「忘れる訳ないだろ?でもそれとこれとは話が別じゃないか。」
「おい。」
カムリも当然それに対してのみ言い返す。
「別じゃないでしょ?どうして別問題だと思えるのよ?」
「おい。」
「村がどうなろうと知った事じゃないよ。弱いものは滅びる。仕方がない。」
召喚術士という人種は、とかくこういうものの考え方をする。 神とも悪魔とも会話をする彼等は独特の超越した思考を持っているからだ。 しかし、ごく一般的な考え方をするリーファにはとても納得できるものではなかった。
「なんですって!カムリ、あなたそんな風に考えてたの!?」
「おい、こらぁ!」
無視され続けてついにキレた門番は、まさにその瞬間に後悔を覚える事になる。 怒鳴り終えるよりも前に。 首筋に切っ先が当たっていたのだ。
「ちょっと黙っててくれない?今、大事な話をしてるの。」
門番の背中を寒気が襲う。
『いったい、いつ抜いたんだ?』
そのまま薙ぎ払われれば、斬られた事さえ気付かなかっただろう。
「う・・・。命だけは。」
「殺すなんて言ってないでしょ?黙っててって言ってるの。」
「わ、分かった・・・。」
「まぁ、あなたは持ち場にお戻りなさいな。」
剣を鞘にしまいながら優しく声をかけるリーファ。 逆に恐怖を覚え、後退りしながら戻っていく門番。
「こんな所で話してても仕方がないわね。」
邪魔が入った事によって落ち着きを取り戻したようである。
「この仕事、続けるつもりなの?」
口調はどこか寂しげだ。
「あぁ。どうしてもお金がいるんだ。やめるつもりはない。」
きっぱり言い放つカムリ。 その表情には決意が浮かんでいる。
「そう。なら、もう止めないわ。」
諦めたようにリーファが言う。
「ただし、私は手伝えない。残念ながら次に会う時は敵同士ね。」
そう言い残すとさっさとその場を立ち去ってしまった。
「まったく。人の気も知らないで。」
カムリは哀しげに呟くとなにやら呪文を唱え始めた。
『偉大なる我等が神よ。あの者が不幸になったらみんなが‘神様なにやってんだろう?’って思っちゃいますよ?そしたら信者減っちゃいますよね。ヤバイんじゃないですかね?護ってあげないと。。。』
神の祝福を請うブレスの呪文である。
遠ざかるリーファの姿をカムリはいつまでも見つめていた・・・。
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