「私たちが…その運命の子とやらなわけ…?」
リーファは戸惑っている。
「そうだよ。」
と、ディプレス。
「世界のカケラってのは知ってるかい?神々の戦争のあまりの激しさに世界が割れてしまった、というアレさ。」
「知ってるわ。」
それはお伽話としてよく語られる話だ。 元々はひとつだった世界が神々の戦争の激しさに耐えきれずいくつかに割れてしまったのだという。 海の向こうに自分たちの世界と同じような世界があるというのだ。 確かめる術はない。
「アレは本当の話。割れてしまったひとつひとつを世界のカケラと言うんだ。カケラだからピース。打ち砕く者だからブレイカー。昔の人が名付けたのさ。」
「人間たち、勝手に名前付けといて勝手に忘れてるんだもん。」
リーファの剣が言う。
「私たちの事だって伝説にしちゃうし。まともに伝える気なんてないんだから。」
「人間たちはな。」
再びディプレスの剣。
「いっこうに現れないので運命の子などいないのだと思うようになったのだ。そして、運命の子がいなくても剣があれば自分たちで世界を救えると思うようになった。」
さらに続ける。
「そう思っているうちはまだ良かった。やがて世界を救えるほどの剣の力を自分たちが手に入れたいと思うようになった。剣が運命の子のものである事を忘れ、剣の力だけを求めるようになった人間たちは運命の子の存在が邪魔になり意図的に忘れようとしていった。ピースの意味もわざと読み違えるようになっていったのだ。」
「でも全ての人間がそうだった訳ではないのよ?少なくともあなたたちの村の人 たちは違ったわ。ちゃんと思い出してあげてね?」
そこまで言うとリーファの剣は喋らなくなった。
「剣も疲れてるようじゃ。皆疲れてるじゃろうし、今日は休むとするかの。」
老師の言葉に従い、一同はそれぞれ部屋で休む事にした。
その夜。 カムリはリーファの剣が言った事を思い出し、考え事をしていた。 そこへコンコンと部屋の扉を叩く小さな音。
「カムリ起きてる?」
声の主はリーファだ。
「起きてるよ。」
「ちょっといい?」
「ん…。」
中に入るリーファ。 しばらくの沈黙の後、ゆっくりと話し始める。
「私たちって…村でピースブレイカーって呼ばれた事なかったのよね。」
「そうだな。」
「隠れて私たちの事ピースブレイカーだって言ってるの聞いて…悪口だと思って…」
「うん。」
「街に出てからピースブレイカーの意味を知ったのよね。」
「間違った意味をね。」
「そういえば…『触らぬ二人に…』なんて言われたのは全然別の事だったわね。」
「あぁ。そうだった…。」
「私、この剣を渡された時『精霊の力が宿った剣だ』って言われて…」
「ん…」
「まさか伝説の剣だなんて思わないから勝手に精霊剣だと思い込んで…」
「そうだね…」
「ひどい思い違いをしてたわね。」
「お互いにね。仕方ないさ。村がなくなった時にはまだ子供だったんだ。」
子供の頃の記憶が新しい記憶に塗り替えられていたのに気付いた二人。 常識、という言葉に真実が埋もれていたのだ。
「もう寝ようか?」
カムリが切り出す。
「そうね。」
リーファは自分の部屋に戻っていった。
『まさかもう終わりだと思ってるんじゃないだろうねぇ?』
寝入っていたカムリの頭に陰欝な声が響く。
『お前は!』
起き上がろうとするカムリ。 だが体が言う事を聞かない。 声さえも出せない。
『起きているのは意識だけだからねぇ。体は寝たままだ。起きられないよ。』
『どうするつもりだ?』
『護符は布石でねぇ。意識に入れればそれでいいんだよ。こちらにおいで。運命の子よ…。』
翌日。 カムリはいなくなっていた。 短剣と共に。
リーファが叫ぶ。
「カムリがいない!捜さなきゃ!」
リーファは外に飛び出していく。
世界が違っていた。 空が暗い。 禍々しい気配が満ちている。 何かが変わったのだ。
昨日までとは違う世界をリーファは歩き始めた。 傍らに剣豪ディプレス。
だが。 伝説の剣はまだある。 運命の子はまだいる。 やがて彼らは出会い、共に災厄に立ち向かっていく。
そして後の世に語られるのだ。 六本の剣の新たなる伝説として…。
|
|