「覚悟しなさい!」
これ以上無い程の怒りの表情でルーツを睨み付けるリーファ。
「お〜。怖い怖い。だが、こっちも仕事なんでね。はい、そうですかって訳にはいかないねぇ。」
「ごめんね…。さっさと終わらせるから。」
リーファがぼそりと呟く。 こんな奴に遠慮して、カムリにケガさせて…。
『なにやってんだろ、私。』
そういえば、昔から心に決めていた事があったっけ。 カムリはよくいじめられてた。 いじめっ子を追い払うのは私の役目。 泣きじゃくるカムリを見ながら誓ったんだ。
『カムリは私が護る!』
リーファの刀身に渦巻く嵐は止めようが無い程に激しさを増していく。
「そこまでじゃ。」
突如として空間が裂け、そこから一人の老人が現れた。 とぼけた感じだがその圧力は凄まじい。 リーファもルーツも身じろぎ一つ出来ないでいる。
「怒りに任せるっちゅうのは感心出来んのぉ。それではカムリも浮かばれんじゃろて。」
「勝手に殺さないでください…。」
か細い声で反論が返ってくる。
「生きとったのか?言葉の綾じゃ、気にするな。だいたいお前さんは格好つけ過ぎなんじゃ。まったくおもろぅないわい…。」
最後の方は小声で、しかし聞こえるくらいの声で言う。
「カムリの事を知ってるの?あなたは誰?」
状況を把握しきれず固まっていたリーファが我に返って問う。
「わしか?わしはただの通りすがりの魔法使いじゃよ。」
ほほっ、などと軽く笑っているが相変わらずの威圧感だ。 リーファは言葉を失う。
「冗談じゃよ。そういえば嬢ちゃんと会うのは初めてじゃったの。いつもいつも弟子が嬢ちゃんの事を話すもんでそんな気がせんかったわい。」
カムリの唸り声が聞こえる。 どうやら照れているらしい。
「そんな事より、そこの赤いのはいつまでそこにおるつもりじゃ?」
睨みをきかされ、たじろぐルーツ。
「こりゃ、ちょいと分が悪そうだ…。」
フワリ、と浮かび上がるとそのまま飛び去ってしまった。
「待ちなさい!」
リーファが後を追おうとする。 しかし、思うように体が動かない。
「早くその剣をしまうんじゃ。お前さんまで倒れてしまうぞ?」
リーファは、その声に救われたように剣に纏った風の力を解除する。 と同時にガクンと崩れ落ち、片膝をついてしまった。 剣を杖替わりになんとか倒れこむのは堪えている。
「何?これ…。」
リーファには自分がどうなったのか理解出来ない。 今までに感じた事も無い程の脱力感。 これはいったい…?
「少し休みなさい。その剣をそこまで使えるのはたいしたもんじゃが、いきなりでは辛かったろうの?」
そして最後にカムリに向き直る。
「この分は貸しじゃからな。お前さんはどうでもいいが、ショウが可哀想じゃからの。」
老師はカムリの背中に手を翳すと呪文を詠唱し始める。
『おお神よ。ここにあなたの下僕が怪我をして倒れております。痛そうです。なんとか…。あぁ。直接力を行使する事は出来ませなんだな。では、わしが治すのを手伝うという形ではどうでしょう?お力添えを…。』
『老師がまともに呪文を唱えてる…?』
カムリは今更ながら自分の傷の深さを思い知った。 『火を』と言えば火柱があがり『水を』と言えば洪水が起こる老師である。 『治れ』の一言で済むと思っていたのだ。
もっとも、ただ単に老師が回復呪文をあまり得意としていないだけなのだが…。
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