「ダメじゃない。この程度の相手に苦戦してちゃ。」
スラッとした長身。 一見華奢だが、実は力自慢の女戦士リーファだ。 手には大振りな両手剣。 彼女はそれを楽々と片手で扱っている。
「なんて事してくれるんだ!もう少しだったのに。いつもいつも最後の仕上げって時に現れて・・・。」
黒いローブに長い杖。 どこからどう見ても魔法使いという姿の男。 召喚術士のカムリである。
「あら、失礼。まごまごしてるからピンチなのかと思って。」
その表情は全ての言葉に嘘偽りがない事を雄弁に物語っていた。
「まったく。僕がこの程度で苦戦する訳ないだろ。生け捕りにしなきゃいけないから手間取ってたんだよ。それも、もうちょっとで出来てたのに・・・。」
本当に悔しそうな表情をしている。 少し悪い事をしたな、と思うリーファだった。
「ごめんなさいね。生け捕りって?」
悪いと思ったらしっかり謝るのがリーファのポリシーだ。
「超獣使いからの依頼なんだ。」
謝られた事で気分が落ち着いたのだろう。 カムリは穏やかな様子で答えた。
「超獣使い?こんなものを調教するつもりなの?」
愛剣で指した先にあるのは、先ほどリーファが真っ二つにぶった斬った(!)トロルの亡骸である。
「知るわけないさ。仕事は仕事。それ以上でも以下でもない。」
クールを気取るカムリ。
「またそんな事言って。いつもそうやって変な事に巻き込まれるんだから。気をつけなさいよね。」
「分かってるよ。」
少しムッとした様子でカムリが応える。 辺境の村で産まれ育った二人。 幼い頃からの馴染みである。 いつもいつも注意をしてくる年上のリーファはカムリにとって小煩い姉のような存在なのだ。
「それにしても、いったいどこから現れたんだよ?」
最後の呪文を唱えようとした瞬間、いきなり目の前に現れてトロルをぶった斬った怪力少女に対する疑問である。
「いやぁねぇ。人をお化けみたいに言わないでよね。」
などと言っているが。 実はこの少女、文字通り飛んできたのだ。 もちろん、魔法の力である。
精霊魔法の使い手にして戦士、‘リーファ・ザ・シルバーウィンド’。 通り名の‘シルバーウィンド’が示すように彼女は風の精霊魔法が得意なのだ。 彼女が唱えたのはこんな呪文。
『ねぇ。私あそこに行きたいんだけどさぁ。貴女みたいに速く動けないのよね〜。ちょっと乗せてってくれない?私と貴女の仲じゃない。後でサービスするからさぁ。』
空中を風の精霊に乗って高速移動するエアーウォークという呪文である。 しかし、それを教えるつもりはさらさらないようだ。
「まぁ、そんな事はどうでもいいじゃない。私しばらく暇だし手伝ってあげるわよ。」
悪戯っぽく微笑む。
「どうせいらないって言ってもついてくるんだろ?」
そう言うとカムリは踵を返して歩き始めた。
「もちろん♪」
にこやかに笑ってついていくリーファ。
この二人、どういう訳か揃うと必ずトラブルに巻き込まれるため‘ピースブレイカー’などというありがたくもない二つ名で呼ばれたりもする。 村では「障らぬ二人に祟りなし」とまで言われ畏れられた二人である。
お互いに別々の旅をしているが、何かある時には遭ってしまう。
おそらくは今回も・・・。
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