知らぬ間にその声が遠くなっていることに
俺はまだ 気づいていなかった
「美夏。今までありがとうな。」
俺がフィリピンに旅立つ朝がやってきた。
「返事は、俺が帰ってきてから聞くからな。」
話はその日の前にさかのぼる。
訓練が終わって学校で帰り支度をしていると美夏が教室の入り口に立っていた。
「なんや?」
「明日、行くんか?」
「うん。」
返すと、美夏はひどく悲しそうな顔をして黙った。
「なあ。こんな事言ったら非国民って言われるんだろうけど
俺は 行きたくないんだよ。」
美夏が顔を上げて俺を見る。
「ほんとはずっとここにいたい。
お前の傍を離れとうない。」
美夏は必死で涙を堪えているようだった。
「何でやろうなぁ。好きになっちゃいけんやつを
どうして好きになるんやろうなぁ。」
まだ青い空を見つめて果てしない未来を描いた。
「結婚、していいんやろ?」
「え?」
「イトコでも、結婚できるんやろ?」
「お母さんはそう言ってた・・・。」
「・・・もしも、俺が生きて帰ってこれたら
結婚 してくれるか・・・・?」
まだたったの15歳のプロポーズは 誓いの指輪も何もない 好きという気持ち。
美夏が泣き崩れた。
俺は美夏の腕を支えるようにそっと抱きしめた。
出発の日は上天気だった。
「じゃあ行って来る。」
「日本男児として誇りを持って戦えや。」
父ちゃんが笑顔で言った。
母ちゃんは少し涙目で、何も言わなかった。 そして俺にお守りを渡して家の中に入ってしまった。
目頭が熱くなっていくのを感じた。
そして 美夏もいつも通りの笑顔だった。
「絶対生きて帰ってきて。」
「おう!必ずな!」
「約束破ったら、あの事断るけんねっ!」
涙を浮かべて、歩き出した俺に叫んだ。
俺は振り返る。
世界一愛しい人の笑顔を最後に見届けるために。
「じゃー絶対帰ってこんと!!」
帽子を深く被り
俺は 泣いた。
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