その名前は
どこかで聞いたことがあった
「みか?」
ばあちゃんが夏に聞いた。
「そう。あたし夢の中で美夏って呼ばれてた・・・。」
僕ははっとした。
みか
これはばあちゃんの名前だった。
「美夏、かね。」 「おばあちゃんの名前・・・?何で・・・?」
ばあちゃんは少し微笑んで言った。
「不思議なことがあるもんだねぇ。 あたしらが子供だったときに、あんたらが行ってたなんて。」
ばあちゃんは昔を思い出しているみたいに目を閉じて、こう言った。
「たけし・・・。」
ばあちゃんの目から涙が一筋流れ落ちた。
そして僕も
まぶたが熱くなるのが分かった。
夏乃も泣いていた。
夕飯を食べて俺と夏は座敷で寝転がって話をした。
「あんたは武?」 「そうや。美夏って、お前やったんか。」 「いや、あたしちゃうよ。ばあちゃんよ。」 「・・・そうやな。」 「ねえ、武っておじいちゃんじゃないよね?確か夢ではイトコだった。」 「昔、ばあちゃんは好きになってしまったんだ。血の繋がりがある、イトコを。」 「・・・うん。あたし、武って人に行かないでって言いたかった。 死なないで生きて帰ってきてって、そう伝えたかった。」 「俺は、行きたくないと思った。だけどお前が言ったんだ。 誇りに思えって。 心がスッカラカンになった感じだったよ。」 「ほんとは言いたくなかったんよ。だけどそんなこと言っちゃいけんって思った。」 「なんか、ごちゃごちゃしとるな。」 「もうわけわからんよ。」
するとふすまを叩いた音がして、入ってきたのはばあちゃんだった。
「いいかね?」 「うん。」
ばあちゃんは座って俺達を見た。
「夏、あんたがあたしだったんだね?」 「・・・うん。」 「あたしはねぇ、武が好きだったんよ。 でも、戦争のまっただ中で武に召集令状が届いてからの日々は 苦痛とでは言い表せないくらいの絶望だったよ。」
ばあちゃんは遠くを見るような目で言った。
「武は、ばあちゃんを好きだったんだと思うよ。」
そう言うとなんだか悲しそうに笑ってまた目線を遠くに移した。
「好きになっちゃいけんかった。 イトコやて。誰にも言えんかった。」
そう言い残して、その場を去った。
二人きりになって少し沈黙が流れた。
「あたしがあんたを好きになるようなもんかね?」 「そう言うことやな。ちゅーか武もばあちゃん好きやったんやから両想いやで。」 「でも、体裁悪いと思ったんやろ?」 「だろうなぁ。」 「かわいそうになぁ・・・。」
目を閉じるとまた聞こえてきた。
優しい声で俺じゃない名前を呼ぶ誰かの声が
「武。」
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