19歳 夏
お母さんが死んだ。
理由は分からない。
多分、過労だと思う。
涙は出ない。
悲しくもない。
ただ
知りたいだけ。
お母さんの
最後の言葉の意味を。
「本日は、母の葬儀にご参列頂き、誠にありがとうございます。 天国の母もとても喜んでいると思います。」
とって並べた言葉を棒読みする。
隣に座るおばあちゃんも泣いていなかった。
あたしは生まれたときから お父さんという存在を知らなかった。
聞いてみたこともあった。
『ねえ、お母さん。お父さんはどこにいるの?』
お母さんは笑うだけだった。
そして
『側にいるよ?大丈夫。』
と、決まってこう言うのだった。
「美波。もう全部終わったからお家帰ろうか。」
葬儀場のロビーでボーっとしていたあたしの肩を 叩きながらおばあちゃんが言った。
「うん。」
タクシーを拾って帰路につく。
電気をつけるといつもの風景だ。
ただ、お母さんだけがその場所にいなかった。
お母さんだけが切り取られていた。
「おばあちゃん。」
荷物を整理しているおばあちゃんの背中に声をかける。
「お母さんって、弱い人だよね。」
呟くと、おばあちゃんは笑った。
あたしに座れと示唆しながら椅子に腰を掛ける。
「どうしてそう思う?」
「・・・母親らしいことは何もできなくて 笑ってるだけで、あたしの悩み一つ気づいてくれなくて・・・」
「そうね・・・。」
「ねえおばあちゃん。おばあちゃんなら分かるかも知れない。 お母さんが最後に言った言葉の意味。」
「美沙が?」
『素敵な恋をしなさい。 死んでしまう前に、素敵な恋に生きなさい。』
「って。」
またおばあちゃんは笑った。
「そう。そんなことを・・・。」
「お母さんはどんな恋をしたの?」
ずっと、聞きたかった。
お母さんの過去に
一体どんなことがあったのか。
「痛い恋をしたわ。
だけど、とても素敵な恋だったわ。」
それからおばあちゃんは話し始めた。
私が生まれる少し前のことを。
|
|