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君を忘れた瞬間から 作者:比呂

第5回   時流
たくさん苦しめてごめんね








季節はもう秋の終わりだった。
寒がりな僕は制服の中にカーディガンを着込んで学校に行った。

幸せそうな美砂と智哉を見た日以来、自分の中で何かが変わった。

「おはよう侑。」
「はよ。寒いな。」
「だな。高校決めた?」
「高校か。もうそんな時期だなぁ。」
「何ノンキな事言ってんだよ!もう追い込み時期だぜ?」
「そうかぁ。」


口ではそんなことを言いながら、僕はもう決めていた。

この街を出よう。


美砂の傍から離れよう。



こんな田舎の小さな街じゃ、いつあの二人に会うか分からない。
会ったらきっと、抑えきれなくなるだろう。

怖い。






それから月日は流れた。


1月。



そろそろ言わなければいけないと思っていた。
僕は、東京に行く。


高校はあの有名な進学校への推薦が決まっていた。


「智哉。ちょっといいかな。」
「おう。」

智哉を廊下に連れだし、全てを打ち明けた。


「え・・・?」
「ずっと言い出さなくてごめん。」
「東京って・・・もしかしてK校行くのか?」
「さすが。勘がいいな。」
「なんで・・・」


眉をしかめた智哉が僕を見ていた。

「辛いんだ。

 ここにいるのは 僕が辛い。」

微笑んでみせたつもりだった。
智哉は申し訳ないというような顔をした。

「なんでそんな顔をするんだ。
 俺は世界一幸せだ!ってそんな顔してろ!」
「どうして・・・何でお前はそんな・・・・」

智哉はうずくまって少し泣いていた。




終わりが近づくにつれて僕は大人になったような気がした。





次の日、学校へ来て僕は机に手紙が入っているのに気が付いた。
取り出してみると、名前はない。

「なんだ?」

中を見ると白い便せんに2行程度の文が書き記されていた。







『 侑へ

 御門君から聞きました。
 今日の放課後、新館裏で待っています。

         美砂 』





懐かしい字。

鼓動がドクっとなるのが分かった。



その日の授業は最悪だった。
何をするにも身が入らない。
気が散ってしまう。






たった あれだけのことなのに。






  

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Novel Editor by BS CGI Rental
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