あの日
あたしの前で起こった出来事が
今も悪夢のようにあたしを縛り付ける
夕方遅くまでけんちゃんちでお姉さんと話をして あたしと京夏は家を出た。
「里沙、あんまり呼び捨てしたことないさっき言ったけど あたしのことは京夏って呼んでるよね。どうして?」
「え?んー他の呼び方が思いつかなくて。」
「じゃあ・・・あたしのことも呼び捨てじゃないのにしてくれる?」
「へ?なんで?」
「ん・・・なんとなく、かな。」
「うん。いいよ。何がいい?」
「何でもいいけど、けんちゃんのマネして“きょうちゃん”は?」
「うん!オッケー!」
「ごめんね、ワガママ言っちゃって・・。」
「ううん!全然平気!」
そう言って歩き出した京夏の後ろ姿を見て 少し胸が苦しくなったのは
きっとあたしが京夏とけんちゃんの恋を心から応援できないから
家に着くと携帯が鳴った。 けんちゃんからだった。
『自意識過剰君になっていい?』
『いいよ』
『もしかして京夏って俺のこと好き?』
このメールをあたしは無視してしまった。
どうして送れなかったんだろう。
次の日の朝 「里沙。ちょっと来い。」
教室で京夏と一緒に話していた時けんちゃんがあたしを呼んだ。
里沙って呼んだ・・・。
「何?」 「なんで昨日無視したの?」
京夏をチラっと見ると、ひじをついてあたし達を見ている。
「お風呂入ってたから・・すぐ寝ちゃったんだ。」
「その割には寝グセないね。」
「う、うん!ラッキー・・。」
「まぁいいんだけど、あのままじゃ俺恥ずいからちゃんと言ってよ。」
なんて言えばいいのか分からなかった。 好きだよと言えば、けんちゃんも徐々に好きになっていくに違いない。
京夏はいい子だから。
なのにどうしてその一言が言えないの?
「違うよ。」
「ふーん。なんかそうかなと思っちゃったじゃん!」
苦笑いを浮かべるけんちゃん。
「あはは。けんちゃん、きょうちゃんのこと好きなの?」
「きょうちゃん?」
「そう呼んでって言われてさ。」
「ふーん。じゃあ俺もきょうちゃんってよぼっかな。」
「え?だ、だめ!あたしだけの呼び名なんだから!」
「いいじゃんいいじゃん。 きょーうちゃーん!」
「やめてよっ!」
京夏の顔を見ることが出来なかった。
「どしたのー?」
笑顔でやって来た京夏を見てほっとした。
そのまま喋って、けんちゃんが教室に帰っていくと京夏があたしに言った。
「なんで健吾まできょうちゃんなの?」
「・・・ふ、ふざけて呼んだだけだと思うよ!」
京夏は下を向いてまた顔を上げた。
「そっか!」
この笑顔の裏に 一体何が隠されていたのか
「健吾、今日の放課後屋上に来て。」
「え、うん。」
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