静が東京に行く。
秋が去って冬がきた。
豪雪地帯のこの街はいつも11月中旬から雪が降る。 どうか今年は早く降って。たくさん積もって。
そしたら電車が動かない。
「今年、遅いな。」 「何が?」 「雪降るの。」 「ああ・・・。」 「どした?晃。」 「何でもない。もう12月になっちまうな。」 「うん。静はあと3日か。」 「うん・・・。」
「お前いいのか?」 「え?何だよ急に。」 「広からは口止めされてたんだけど・・静行かせていいのか?」 「・・・俺が口出しする問題じゃないだろう。」 「そうだけど・・。」 「俺は黙って見送るさ。」
翔平は納得がいかないというような顔をした。
「なぁ翔平。俺は意気地なしかな。」 「え?」 「好きな女が一人で東京に行くのに、追いかけようともしないんだ。 俺は弱いかな。」 「そんなことねぇよ。
ただお前は静の夢が叶うまで余計な事考えさせたくないって
そう思ったんだろ。 自分の気持ちを押し殺してあいつの幸せを願ったんだろ。
十分強いじゃねぇか。」
泣きそうになってしまった。 たったこれだけの言葉なのに心にずっしりきた。
「本当は、行って欲しくないんだ。 ずっとこのまま5人一緒にいたいんだ。」 「うん。」
「だけど離れていくのは仕方ない。 時期が早まっただけだ。 なのにそれを悲しいと思う。 情けねぇなぁ。」 「俺だってそうだよ。」 「ごめんなーこんな話して。」 「いや、お前の本音が聞けて良かったよ。」 「うん、じゃあまた明日な。」
そしてすっきりしない気持ちを残して静の出発の日がやってきた。
「じゃあ、行ってくる。」 「いってらっしゃい。体には気をつけるのよ。」 「うん。」 「東京の奴は危ないからな!夜は出歩くなよ。」 「分かってる。」
家族と会話をして、静は俺達の方に来た。
「ずっと、ありがとうね。」 「あたし達こそだよ。頑張ってね。」
「お前は一応美人なんだからな!変な男に狙われてもシカトしろよ!」 「はは。うん、分かった。翔平もね。」
「広、ちょっと。」 「何?」
コソコソ
「なっ!!違うよバカ!」 「素直になってね。」 「ふん。」
俺の番だ。
「静、看護婦になったら制服姿見せに帰って来いよな。」 「うん、必ずね。
電話するよ。」
「え?」
「話したいことがあるの。」 「・・・うん。待ってる。」 「じゃあね。」
手を振って、静は搭乗ゲートに消えた。
話って何だろう。
ねえ
俺も話したいことがたくさんあるよ。
俺は
5人と4人じゃ全然違うって思ってる。
静じゃなくたって
誰かがいなくなったら寂しい。
でも帰ってくるから。
いつかまた5人で会えるから。
寂しいなんてもう2度と思わない。
|
|