秋の風があたしの頬をかすめようとしていた
その日の昼休み、泉を呼び出した。 午前中ずっと泉に言おうか言うまいか迷っていたけど なんで言うまいとする自分がいるのかよく理解できなくて 言ってしまった方が気は楽になるだろうと思った。
「あの日、勝太と一緒にあんたが映画見に行った日、 あん時あたし、病院行ったって言ったやん。」 「うん・・・?どうした?なんかあんの?」
「あたしなぁ、3年前病気になったんや。軽いもんやったけど それが、再発したん。」
泉の表情が変わった気がする。
「・・・なんていう病気?」
「心房隔中欠損症」
「知らんわ、そんなん。」 涙目になった泉がわざと元気なフリをする。
「だから泉にも言っておかなあかんと思って・・・」 「・・・・」
キーンコーンカーンコーン
「もう行こうか。」
泉は何も言わずに黙って歩いた。 教室に向かう階段がやけに長く感じた。
今日も病院へ行った。 医者は、
「いつ倒れても、不思議ではありません。 入院はどうされますか。」
「・・・もう少し、時間をください。 まだやってないことがたくさんあるんです。」
すこし、間をおいて医者は答えた。 「良いでしょう。やるべきことが済んだら また私の所へ言いに来て下さい。待っています。」
理解ある医者で良かったと思う。
風は完全に秋の季節を感じさせた。
もう、戻れないと何度思っただろう。 それでも幾度となく今の場所に戻れた。 どうしてだろうか
考える必要などどこにもないけれど
やっぱり君がいたことで
安心していられたのは事実だった
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