はっと我に返ると、葬式は全て終わっていて 宏海と夏樹が心配そうに僕を見ていた。
櫂「終わったんだ。」
宏海「櫂、顔色悪いよ。」
櫂「平気だよ。ありがとう。」
宏海「櫂、さっきね五月のお母さんがいらっしゃって 遺影の写真を預かったの。 櫂に渡してって。はい、これ。」
いつもと同じ、太陽みたいな笑顔が モノクロの世界の中で輝いていた。
櫂「ありがとう。」
夏樹「もうそろそろ行こうか・・・。」
櫂「・・・うん」
スッキリしない冬晴れに 五月の不機嫌そうな顔が目に浮かぶ。
みんな一言も言葉を交わさずにバスへ乗り込んだ。
家に着くと、みんなは僕を心配して 一緒にいようか?と声を掛けてくれたけど 今日は何だか、独りで居たくて断った。
午後4時をさしていた。
何故か僕はいつも通っている学校に来ていて 誰もいない体育館に独り立っていた。
「かっちゃん。」
そう呼ばれた気がした。
慌てて振り返る。
誰も居ない。
居るはずがない。
櫂「 五月 」
口に出すと思ったより重くて 僕は壁にもたれ掛かって
そっと、目を閉じた。
五月「私、このひろーい体育館好きなんだ!」
櫂「へー。何でさ?」
五月「シーンとしててなんか不気味だけど
かっちゃんと私しかいない世界みたいな気がするから!」
そう言って振り返った五月が 頬を赤くして笑った。
五月「このままずぅーっと一緒にいたい。
ダメですか?」
櫂「喜んで。」
手を繋いだ。
目を開けて、自分の手の中を見た。
何も無かった。
だけどあのあったかい小さな温もりだけは
ずっとこのまま、一生消えないと思うんだ。
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