第5章 殺傷遊戯
「乗れ」 そう短くいわれて、遊は戸惑った。 簡単に、意図も簡単にヒトのイノチを奪える奴ら。得たいの知れない奴ら。ただ単純に怖かったのだ。 立ち尽くして、少し身体を強張らせていると、イラついたのであろう一人の男が、遊の腕をつかんで、中に無理矢理入れた。 「うぅわッ・・・!!」 バランスを崩し、前ののめり込むと、車の中にズルっと入った。一見すると、ベンツのようだった。 そして、男と女のいる後部座席の真ん中に座らせられると、男に短く「つけろ」といわれ、渡された物。 「あ・・・アイマスク・・・?」 アイマスクを手渡され、一瞬、遊の頭の中にイメージが浮かんだ。 とある、テレビ番組のドラマで、アイマスクを付けられた女は、そのまま連れ去られ、終いには殺されてしまうという、なんともありきたりな誘拐事件の風景。ソレが、遊の頭の中に浮かんできたのだ。 途端に、遊は怖くなった。 ―俺は、殺されるのか・・・ッ? 身体はガタガタと震えだす。その様子に気付いた男は、遊の手からアイマスクを奪い取り、瞬時に遊の顔にアイマスクをつけた。 「・・・―ッ!!!」 その一瞬で、遊はかなりの恐怖を覚えた。 ―何なんだ今日は・・・ッ。なんで俺だけ・・・こんな目に・・・ッ!! ―嫌だ、死にたくない。まだ・・・まだ・・・。 ―怖い。死ぬのか。 遊の頭には、様々な思いが浮かんでいた。しかし、其れ等はみな、恐怖に通ずる感情でしかなかった。 「そないに怖がる事ないでー。なんも怖い事なんかあらへんよ」 ふと、不自然な関西弁を話す男の声が聞こえた。 「テメェは黙って運転してろ」 遊の隣に居た女がドスを聞かせて、その声の主に言った。女性が話すような言葉遣いじゃない、とても乱暴な言い方。その声にさえ、遊は身体を震わせる。心臓は、破裂するのではないかと思うほど高鳴る。 「ほな、さっさと行きまひょか」 そう、関西弁の男は言い、車を発進させた。ふと、車が少し浮いたような感覚に襲われた。そして、鈍く嫌な音が聞こえた。その音は遊の友、聡の死体を踏んだ音だった。遊は目の前が暗い闇の中、ずっと黙り込み、その状態を5時間も続けていた。 そして、やっと着いた先、其処は。
第6章へ。
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