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刹那遊戯 作者:妖華

第3回   第三章 驚愕遊戯
第三章 驚愕遊戯

暗闇の中で聞こえた声、今遊の目の前にいるモノの正体。ソレは。
「お・・・やじ・・・」
「・・・遊か・・・」
目の前にいたモノの正体は、拍子抜けな結果で遊の父親、義唯だった。暗闇でほとんど何も見えない状態だった遊にとっては、ソレは全く経験した事のないような恐怖だったに違いない。遊は、安著から全身の力が抜けていったのを感じ取った。自分の他にもヒトがいる。ソレだけで、安心できる。遊は、改めてそんな事を、切実に感じた。
「・・・親父・・・アレ・・・」
遊は、そんな気持ちは振り払い、申し訳なさそうに母親の死体を指差す。何故、申し訳なさそうなのかは、遊自身にも解からなかった。だた、責任が、遊に圧し掛かっていたのだ。
「・・・ああ。初未か・・・。・・・ッ」
そう一言だけ呟くと、顔を伏せてしまった。仕様が無い。誰だって、愛しいヒトが亡くなったら、涙する事だろう。義唯の頬に付着していた血は、涙らしき液体で、赤く滲んだ。
「・・・なんで・・・こんな事に・・・?」
遊が、義唯の顔を覗き込みながら問いかける。すると、義唯は、泣くのをやめ、やがて瞳孔を開いた眼で、遊を視た。その眼には、多量の殺気が満ちている様な気がして、遊は喉を鳴らす。
「・・・そうだ、こんな事になったのも・・・全てお前の所為じゃないか・・・」
「・・・はぁッ!?」
義唯が顔に片手をあて、その指と指の間から遊を覗き込む。やはり、寒気がするような、眼をしていた。憎悪に、満ちた眼。本来ならば、そんな眼を実の息子に向けるようなヒトじゃない。何かが変だった。そんな気がしてならない遊は、少しずつ立ち上がる。
「・・・親父・・・?」
「お前がいるからこんな事に・・・ッ!!!」
突如、親からの衝撃的な言葉。ソレだけでも、泣きそうになる遊に、これよりももっと、衝撃的な言葉が襲い掛かる。
「・・・殺してやる・・・」
コロシテヤル。確かに義唯はそう言い放った。実の息子に向けて。遊は、何がなんだか解からないまま、涙した。
「なんで・・・俺・・・何もしてねぇよ・・・ッ!!如何したんだよ!!親父・・・」
「煩い!!」
義唯は、頭を抱えながら転がっていた花瓶を振り回す。ソレは、義唯の意図によって動かされている攻撃だと知って、遊は愕然とする。
「何も・・・してねぇよ・・・ッ!!ナンデ・・・ッ」
遊は、義唯の攻撃を交わして、暗闇の中へと逃げていった。
「・・・何で・・・何で俺が殺されそうにならなきゃいけないんだ・・・ッ!!!」
二階への階段を登って、自分の部屋に辿り着くと急いで鍵をかける。遊の部屋は、窓が閉まってないので、太陽の光が照らしこんで、明るかった。それだけで安心する遊。部屋は、散らかっていた。
「一体・・・俺が学校に言ってる間に・・・何が起きたんだ・・・」
すると、そんな安息の空間を裂くような音が聞こえる。ダンダンダンと荒々しい音が聞こえてきて、遊の部屋の扉が跳ねる。義唯がいる。最早、遊に義唯が父親など、そんな感情はなくて、ただ、殺されそうになっている事だけが、頭を動かしている。
「・・・・・・親父・・・ッ」
自分のベッドに行き着き、蹲って泣いていると、低い獣の声が聞こえる。何かと思って下を見る。
「・・・ホト・・・」
其処にいたのは、飼い猫のホト。白かった毛が、血で赤くなっている。
「・・・ホト・・・良かっ・・・」
その言葉を、言い終わるか言い終わらないか。その瀬戸際で、遊の右手に痛みが走る。ホトを見ると、遊の指を噛んでいた。
「ホト・・・なんで・・・お前まで・・・ッ?」
血が流れ出す。昔、遊はホトに引っ掛かれて血を流した事があった。その時は、ホトは優しく傷のトコロを舐めた。今は、舐めもしないで、そのまま噛み続けている姿がある。
「・・・ッ!!!」
遊は、思いっきりホトを壁に投げた。鈍い音がして、ホトは息絶えた。そんな行動をとった遊は、自分が怖くなった。
「・・・俺・・・ホト・・・を・・・」
どんどん自我が溶けていくような、そんな感じがしてならないらしい。蹲った身体は、震える。自己嫌悪なんて、そんな軽いモノじゃないものが、遊の肩に重く圧し掛かる。
「・・・・・・ああ。なんなんだよ」
遊は、顔を窓の外に顔を向ける。太陽の光は差し込むばかりだ。ふと、音が止んだ。一気に家中が静かになった。そんな静けさは、逆に不気味でならない。震えは止まらなかった。
そんな静けさを裂くような、大きい音が聞こえたと同時に、義唯が鋸を持って部屋に入ってきた。その鋸には、血が着いている。
「は・・・ッ。親父・・・」
蹲っていた身体を起き上がらせると、後ずさりをする。
「お前さえ、いなければ・・・。そうだ。お前さえ・・・」
ブツブツと、そんな事を言う義唯の焦点は、最早合っていない。虚ろな眼をして、凄い形相で遊を見る。そして、鋸を持ったまま、遊に突進していった。
「・・・ッ!!!」
声にならない感覚。これが、本当の恐怖なのだと、遊は確信する。急いで、逃げると、机の上にコンパスが置いてあった。昨日、数学の宿題をする為に用いた物。
「昨日は、あんなに平和だったのに如何してッ!!」
そう言い切ると、コンパスを右手で持ち、義唯に目掛けて投げる。流石野球部とでも言おうか。ソレは、義唯の右足にモロにヒットした。
「う・・・」
しかし、刺さったにも関わらず、少し唸っただけですぐ襲い掛かる。遊は、何度も何度も攻撃を試みたが、ソレは無意味に等しかった。
「・・・痛覚ってのがねぇのかよ・・・ッ。化けモンじゃねぇか・・・ッ」
実の父親は、痛みを感じないただの化け物になっていた。しかしソレは、操られているようにも見える。しかし、こんな状況下で、遊はそんな考えを持つ事は不可能だった。とうとう追い詰められた遊。背後には窓。
「・・・どうするよ・・・俺・・・」
そんな考えを与える暇もなく、義唯は鋸を遊目掛けて振り下ろす。
「・・・ッ。一か八か!!!」
遊は布団を引っ張り、身を包んで、窓を割った。鋸からは逃れられたが、二階なので落ちた時の衝撃は、布団一枚では相殺せきずに、痛みを伴った。
「いってぇ・・・ッ!!!」
遊は、身体を起こして、走り出した。まだ、義唯は諦めず、追いかけてくる。痛みを伴わない彼は、意図も簡単に二階から飛び降りたのだ。しかし。痛みを伴わないとはいえ、身体は生身の人間。布団も何も包まず、そのままの姿で飛び降りる事は、自殺行為。嫌な音を立てて、義唯は、死んでいった。
「・・・ッ。親父・・・おや・・・うぅッ」
その死体の変死ぶりに吐気がする。遊は、よろよろと歩き出す。家の玄関を出て、振り返らず走った。
「何なんだ・・・ッ!!これは・・・夢・・・か・・・?夢なら覚めろ!!!」
空に叫びながら遊は、走る。友の下へ。

第四章へ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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