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The last light〜最後の灯〜 作者:妖華

第5回   第5章 いつかの灯
「灯!!灯!」
「君、下がりなさい!!」
優は屋上を急いで降りた。下に着いたは良いが、肝心の灯に近づけない。
現場検証が行われていた。そこに、遅れて救急車が着いた。連れて行かれる灯。
「待て・・・そのヒトは・・・っ」
「・・・っ身体が冷たい・・・早く病院に連れてくぞっ」
灯を抱きかかえた救急隊員は、慌てて他の隊員に支持を促す。慌てた始めたのは仕方ない。なにせ、灯のカラダは死体の如く冷たかったからだ。
「駄目だ!連れて行くな!」
優は灯を抱えている救急隊員にしがみ付いた。その拍子に、灯の顔がチラっと見えた。青ざめてもいない、普通の顔色。いつもとなんら変わらない。一つだけ変わっているといえば、血で顔が赤く染まっていた事。頭部は、何とか大丈夫な様子だったが、身体が悲惨だ。関節を無視している。そんな状態の灯を見て、優は今まで灯を見てきた中で感じた事のない、異常な感情を抱いてしまった。その感情は。
気持ち悪い。
屋上の時の気持ち悪さとは桁が違う。吐気を通り越して、胃の圧迫が感じられる。心臓は、もの凄く速い。
「何を言っている。早く手術をしないとこのヒトは死ぬぞ!」
そう言うと、他の救急隊員は灯をタンカに乗せ、救急車の中へ運んだ。
「俺ならそのヒト・・・っ」
優は、嘔吐感を沈めながら漸く放てた言葉を、自ら遮った。
灯は、『ヒト』じゃない・・・。『ヒト』じゃないんだ。
「っ俺なら灯を、助けられるんだ!!」
「早く運べ!!」
救急隊員は、そんな優の言葉を無視して、灯を救急車に乗せ、発進させようとしている。
「待てっ・・・!!」
灯を乗せた救急車は、サイレンを流しながら遠ざかっていった。
現場に残されたのは、優と、現場検証をしている警察と、野次馬と、灯の『血痕』だけだった。
「・・・・・・灯・・・っ」
優は、その場に蹲ってしまった。吐気と、灯を助けられずに寧ろ死に追いやった自分の情け無さに屈服して。自然と、優の目からは涙が零れ落ちていた。
「・・・・・・・っ」
イキナリ何かに気付いたようで、優は曲げていた上半身をガバっと起こす。
「今なら、まだ助けられる・・・っ!!」
急いでタクシーを拾い、自宅のマンションへと向かった。そのタクシーの中で、優は一心乱れず灯の無事を祈る。
しかし、灯は『霊魂』。死ぬという事があるのだろうか。
そんな疑問を抱きつつも、優は必死に祈っていた。



「・・・・・・・あった・・・」
優は体中ホコリまみれになっていた。
自宅へ着いた優は、灯の言っていた『魂』を探していた。そう、優の『大切なモノ』を。
探し続けて約30分。漸く『魂』を見つけた。部屋の押入れの中から、一つの『小さな箱』を取り出した。
『小さな箱』を開くと中には、小さなダイヤモンド仕様の指輪が入っていた。これは、以前優が付き合っていた女性、『水里 光』に渡す筈のモノだった。
が。渡す前に、突然の事故死を遂げてしまったのだ。
今もその指輪を大事にし、いつか自分の下へくる『光』みたいな女性にあげるために保管してあったのだ。
今、その大事なモノを使う時がきた。プロポーズや告白などよりもっと、もっと大事な事に使うのだ。
一つの”生命体”を助けられる。
優はその『大切なモノ』を握り、急いで自分の車で灯の元へ向った。「灯はいますか!?」
受付を済ませ病室にの扉を開けたた優は、その重苦しい空気に足を止められた。
医者は、優に近づいて来た。
「本来、部外者なら入らせないのですが、貴方は特別です」
医者は優の前までくると、そう囁いた。その顔は、事の深刻さをも表している様な、厳しい顔つきだった。
「え・・・・・」
「貴方は『優』と、言うのですよね?」
知り合いでもないこの医者に、イキナリ自分の名前を呼ばれた。
「何故・・・・・?」
医者は苦い顔をして、灯の方を見ながら告げた。
「・・・彼女は・・・手術中、麻酔をかけてるにも関わらず、うわ言で貴方の名前を呼んでいたんですよ」
ソレはそうだ。幾ら灯が憑依しているヒトの身体に麻酔を打っても、動かないのは身体だけ。声は、口さえ開けてあればいつだって出せる。勿論、灯に痛覚などない。
「・・・灯が・・・オレを・・・」
涙が床に落ちた。医者は、「では」と一言残すと、病室に優と灯、もとい、『灯の死体』だけを残すと、他のヒトも連れて病室を去っていった。
『灯の死体』の顔には、白い布が被されていた。その布を、震える手で捲った。そこには。
「・・・・・・っ灯・・」
綺麗な顔を浮かべながら、安らかに眠っている灯の顔が見えた。その顔は、いつかどこかで見たことがあるような顔だった。しかし、その情景が思い出せない。優は、そんなもどかしさなど棄て、灯の右手の薬指を身体に被せてある布の中から取り出した。
「・・・コレ・・・もう手遅れかもだけど、コレが俺の『タマシイ』だ」
優は、まだ泣きたいのを堪えながら、手に持っていた『小さい箱』から指輪を取り出した。その手は僅かながらに、震えていた。
「・・・・・好き・・・だ・・・灯・・・」
優はそっと、薬指に指輪を嵌めた。指輪には、ダイヤが施されている。
そのダイヤは、この病室の重い空気を知らないように、輝いていた。
「灯・・・・・・っ」
優はとうとう堪えきれず、泣き出してしまった。
《泣かないで・・・優・・・》
すると声が聞こえた。それは確かに、灯の声だった。それは、か細く、弱弱しい、『トモシビ』の様な今にも消えそうな声。
しかし、横に横たわる灯を見ても、口は一切動いていない。一体どこから。
だが、間違いない。声は灯のものだ。
「・・・あか・・・り・・・」
辺りを見回すが、誰もいない。ただ、純白のカーテンが虚しく揺れるだけだった。
物静かな空気。先ほどの重苦しい空気は無く、爽やかな空気。
とても、心地よい。灯と居た時に感じたこの安心感。
「ココロが・・・安らぐ・・・」
優は、和んでしまっていた。その瞬間。
《っ駄目!目を覚まして!》はっと、優は我に返った。身体がフワフワする。心地よい空間。ずっと、このままで居たい。
灯と、ずっと一緒に居たい。
そんな気持ちが、優の心に関係なく涌いてくる。
「・・・灯・・・?俺・・・如何したんだ」
優の眼はドコか、トロンとしている。何も無い空間を見ている。
《・・・っ・・・駄目・・・なの・・・。このままじゃ、優さんまで・・・逝ってしまうわ・・・っ。私と・・・コレ以上居たら・・・貴方は・・・》
一瞬、突っかかった。恐らく、泣いているんだろう。震えた声は、放ったと同時に空気に消える。
《・・・死んでしまう!》
一瞬間が有る。
「それでも良い」
灯の涙が、零れた。優には見えないが心で何となく解る。そんな答えを返した優に灯は、当然驚いた。
《・・・そんな・・・駄目です・・・死ぬなんて・・・》
「それでも、灯と一緒に居れるなら・・・良い。『死ぬ』なんて、怖がらない。恐れない。俺はお前が好きだ」
灯は、反論しようとしたが、それは出来なかった。優の真っ直ぐな瞳。灯の姿は視えない。しかし、感じれる。
優の視線の先には、ちゃんと、灯が居た。
《私・・・無意識に・・・貴方を連れて行ってしまう・・・お願い・・・私から離れて・・・》
「灯は、最初から幽霊なんだよな?」
イキナリの、優からの質問。灯は、少々戸惑った。
《・・・はい・・・》
「この身体は、誰のモノなんだ?」
灯の身体は、ビクッと震えた。強張った、身体。
優はその様子は大体想像していた。
何故か前から知ってる灯の癖。その癖をするのが思い当たる人物が一人。しかしその女性は既に亡くなっており、いない。
喋る時。語尾を垂らす様に伸ばす喋り方。今思えば、声だって似ている。それらは、そう。以前優が付き合っていた女性、『水里 光』の仕草と全く同じだったのだ。
《・・・私・・・は・・・》
ピン、と、空気が張り詰めたのが、優に感じられた。
《私は・・・『光』です・・・優》
優は、目を見開かせた。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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