「”灯”・・・つまり貴方の”魂”です」 「俺の・・・”タマシイ”・・・?」 嫌な汗が流れてきた。普通ならこんなの、冗談で笑い飛ばせる。しかし、今は状況が違う。 灯の真面目な顔。一心に優だけを視てる目。 優の心臓は、高鳴っている。異性に見つめられドキドキしているのと、『タマシイ』を貰うと言われた恐怖が重なって。優は、思わず後ずさりをした。 「・・・あの・・・そう言われても・・・困りますっ」 優は無意識に苦笑いをしていた。 そんな優に、灯は困った表情を一瞬見せた。 「・・・いえ。無理にとは言いません・・・」 「でも!あの・・・”タマシイ”を貰うって・・・ソレってつまり・・・」 慌ててる優を視て、灯は小さく笑った。こんな状況なのに。 「・・・貴方の”魂”と言いましたが・・・それは『貴方を殺す』って言う訳じゃ・・・ないんですよ・・・あははっ!!」 なんとか堪えてた笑いを、堪えきれず笑ってしまった。 笑った顔はいつもの倍、美しかった。 「・・・・・・・・・はい?」 優は、未だ何で笑われているのか解らないでいた。 ただ呆然と、そこに突っ立っていた。 すると、笑い涙を拭きながら灯は優の方を向いた。 「・・・貴方の・・・”大切なモノ”さえ貰えれば良いんですよ」 優は拍子抜けだった。 「俺・・・てっきり殺されるのかと・・・」 すると、また灯は笑い出した。 「・・・・・・・あのぉ・・・」 思いっきり笑い飛ばしている灯に、今度は優が困った顔をした。 「あっ。すみません!!つい・・・っ」 笑っていた時に、口の前で口を隠していた右手を前に持ってきて、俯いた。 「・・・で。オレは”大切なモノ”を貴女にあげれば良いんですね?」 「あ・・・はい!!」 灯は、明るい顔をしてきた。そして、優の右手を掴んだ。 「嬉い・・・私・・・コレで”天”に還れます。本当に有難う御座います!」 「あ・・・いえい・・・」 優は、異性に手を握られたのなんて、2回位しかなかった。 たちまち優の顔は、赤くなっていった。が、優は気づいてしまった。 ・・・このヒト・・・冷たい・・・。 灯の体温は、死体の様に冷たかった。思わず、優のカラダにゾクリと寒気が走り、鳥肌を立たせていった。氷より、少し控えめな冷たさ。尋常じゃ無い。 彼の世から来た・・・・・・『ヒト』・・・じゃない。 優の顔は、先ほどまでと一変して、どんどん青くなりつつあった。身体は震えだす。照れて、赤くなっていた顔は今やドコにもない。 そうだ・・・この『ヒト』は・・・『ヒト』じゃないんだ。 優は、右手を思いっきり振りほどいてしまった。 顔色が、もの凄く悪くなってきている。 「・・・あっあの!!大丈夫ですか・・・?」 「・・・・・・っ」 全身からは、嫌な汗が出て来ている。 口に手を当てて、吐き出しそうなモノを懸命に抑えている。 床に手を着いて、四つん這いになって、下を向いて、成るべく灯の顔を見ないようにしていた。見たら、吐く。胃が締め付けられるような、嘔吐感。 込み上げて来る。感情と共に。 「あの・・・私・・・何かしましたか・・・?」 そう言って、灯は訝しげに優の顔を覗き込んだ。その瞬間。 「・・・・・・っ来るな!」 優は、灯を突き飛ばした。灯を見た瞬間込み上げて来た。 灯は近くでしりもちをついて、ただ優を見つめて呆然としていた。 長い髪が、乱れてグシャグシャになっている。 そして、その拍子に視えた灯の細い足。そこには”霊魂”という印が施されていた。 俺は幽霊に・・・。 どうしようもない嫌悪感。先ほどの、冷たいカラダ。その感覚を思い出すだけで吐き気がする。『ヒト』じゃない。『霊魂』。 すると、灯は立ち上がった。 「・・・済みません・・・色々とご迷惑をお掛けしました・・・もう、逢う事はないでしょう・・・さようならっ」 そして、灯は屋上のフェンスを一気によじ上った。元々低いフェンスは、女性の灯でもスルスルと登っていける。優には、灯がこれから何をするのか解っていた。 灯は、飛び降りるつもりだ。 「・・・っ待て!!」 優が灯に呼びかけたが、灯は優を視ると微笑んだ。そして。 「私の顔、また見てもらって、嬉しいです」 灯は一瞬にして、優の視界から消えた。 その後に聞こえた、嫌な鈍い音。そして、人々の、悲鳴。 優は、フェンス越しに下を見た。そこには・・・。 「・・・・・・・灯・・・?」 そこには、血だらけでカラダが何ともいえない状況になっている、無残な灯の姿が有った。
|
|