アナタは、何故あんな事をしようとしたのですか?」 男性は、病院の屋上で女性に聞いてみた。それなりのムードがあった方が良い、と余計な気遣いをして屋上に態々移動したのだ。 「・・・・・・・・」 やはり、女性は話さなかった。もしかして、このヒト口が利かないのかも。なんて思った矢先に、不意にかけれた言葉。 「お名前を・・・教えて頂けませんか?」 その女性の声は、澄んだ声をしていた。そして、男性にとって聞き覚えのある声でもあった。 「あ!オレは佐竹 優です・・・!」 優は、しどろもどろしながら答えた。 「私は・・・緋仮 灯・・・です」 あかり・・・良い名だ。優はしみじみと思ったそうだ。 そして、真面目な顔をして灯に問いかけようとしたが、それは灯の問いかけによって遮られた。 「貴方は・・・なんで私を助けてくれたのですか・・・?」 「・・・貴方が・・・昔好きだったヒトに・・・凄く似ていたもの出・・・つい」 優は、顔を赤く染め、ポリポリと頭を手で頭をかき、笑いながら言った。 そう。優は最愛の女性を事故で亡くしてしまっていたのだ。灯はその女性、『水里 光』の生き写しかの様に良く似ていた。いや、似過ぎていたのだ。 その時、灯は切なそうな顔をして、そして一言。優に聞こえないくらい小さな声で「だってそうですもの」と呟いた。勿論、優には聞こえていなかった。 そしてタイミングを見計らって優は問う。 「さっきも聞きましたが、なんで・・・あんな事・・・」 「・・・・・・・・」 やはり、駄目か。無神経な事、聞いちゃったかな。 優は違う質問をしようとした時だった。 「私は・・・”灯”・・・なんです・・・」 その聞きなれない言葉に、優は戸惑いを感じる。その言葉を発した時の灯の声は、小さく震えていた。 「え?」 灯は、虚ろな顔をして言った。かなり、悲しそうに。 「とも・・・しび・・・?」 確かに彼女はそう言った。しかし”灯”とは、何なのか、解らなかった。 「・・・こっちのセカイでは・・・長くは・・・だからもういっその事死のうと・・」 「何・・・を・・?」 セカイ?こっちの?何を言ってるんだこのヒトは。 しかし、灯は、大粒の涙を零してしまっていた。 「え・・・!?」 突然の灯の号泣に、優は眼を丸くした。 「私・・・まだ死にたくないです!!」 目の前で女性に泣かれてしまった。周りのヒト達の視線が妙に痛い。 優は、兎に角灯を泣き止ませようと試みた。 「あのっ・・・ハナシが良く・・・解りませんが・・・」 「・・・私は・・・言わば『霊魂』だそうです・・・」 『霊魂』。いわば幽霊。優は、黙ってしまった。 (幽霊・・・ははっ。そんな馬鹿なハナシが・・・) 優はココロの中で少し笑った。 「本当・・・です・・・本当なんです・・・」 その声の重さに、優ははっとする。 「まさか・・・本当に・・・だって、足見えるし、透けてないし、影もできる・・・それに怪我だって・・・」 優は無い頭絞って、頭の機能をフル回転させて、論理に沿って灯という『ヒト』が『霊魂』だという事を否定しようとしている。 「・・・このヒトの身体を・・・借りてるだけです・・・」 「・・・・・・あ。なるほど」 『借りてる』。それは即ち、『憑依』だという事を優は知っていた。優の努力も虚しく、自分の意見よりも納得のいくような解答をされてしまった。二人の間には、数分間もの沈黙が続いていた。 そうしてる間に、屋上に居たヒトは、もう何処かへ行ってしまう。 屋上に、何羽もの烏がとまっている。逆に、この方が良い。話し易くなった。 そんな沈黙を破ったのが優。 「俺に・・・何か出来る事は・・・?」 「・・・優・・・さんに・・・出来る事・・・」 また沈黙。そして。 「・・・有るには・・・有ります」 「そうですか!!良かったぁ・・・」 優は、無邪気に喜んだ。これから、衝撃の事実を知る事となるのに。 その、衝撃の方法とは・・・。 「貴方の・・・”灯”を・・・貰うのです」 「俺の・・・”ともしび”・・・?」 たった今吹いた風が、妙に身体に染み込んだ。
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