病院の薬臭い匂いが、ツンと鼻にくる。 女性は未だ黙っていた。あの時と同じようにぼーっとしていた。 ベッドの傍らの椅子に座り、膝に手をついて、目の前に横たわる男性を見ていた。 「・・・・・・・」 もう、どの位時が過ぎたのだろう。一定な時計の針の音が妙に煩い。 その時、男性の指が少し動いた。そして、眼を少しずつ開かせていった。 「・・・・・・ぁ」 女性はじっと男性を見ていた。眼が合った。何気に男性は照れた。あまりにも、綺麗な女性だったから。 「・・・・あの・・・・」 未だ女性は黙っている。しかしその眼は、どこか嬉しそうで悲しそうだった。 無表情な顔つき。冷めている。微笑んでいる。矛盾な表情。言ってしまえば、そこが綺麗なのかもしれない。 「気がつきましたか」 病室の扉を開ける音がした。病室に入ってきたのは、白衣を纏い、眼鏡をかけたいかにも医師、と言う雰囲気の男性だった。右手にはカルテらしきものを持っている。 「先生・・・俺・・・」 「アナタは後で警察に表彰されるらしいですよ。そちらの女性を護ったので」 医師は微笑を浮かべながら、軽く拍手をした後、未だ無表情で座っている女性を指差した。男性は女性を見た。見とれてしまう程、綺麗なヒトだった。 何故、こんなヒトが、ボーっとしていたのだろう。 あれは、自殺にしか見えない。 男性の脳裏には、数々の女性に対しての疑問があった。 「アナタ、軽傷で済んで良かったですね」 そんな言葉からまた一つ、男性の脳裏に疑問が浮かんだ。 「俺・・・なんで軽傷なんだ」 女性は、未だ黙っている・・・。
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