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推理小説殺人事件<改> 作者:幻柳院乖魄

第2回   機捜のハイエナ
 車のエンジンを切り、サイドブレーキを引くと腕時計のストップウォッチを止めた。本部詰めしているときに限り、通信指令室からのアナウンスが終わると同時に、ストップウォッチをスタートさせている。
 110番通報より凡そ10分で現場に到着することが出来た。
 新記録、だったろうか。半ば遊び感覚でやってきたタイムレースが、いつの間にか義務的になって、警察官としての自らを締め付けている気がしてならない。
 望月壮太郎は、警視庁刑事部第一機動捜査隊の巡査部長である。機動捜査隊は『機捜』とも呼ばれ、殺人などの重大事件に際していち早く駆け付けなければならない。事件の鍵を握るとされる初動捜査が有意義なものとなるか否かは、機捜の働きによるところが大きい。
 アナログ式腕時計のストップウォッチの針をゼロに戻し、時計モードに切り替えた。長針と短針が忙しなく回転し、今の時間でぴたりと針が止まる。シートベルトを外し、車から降りると望月壮太郎は現場となる豪邸に眼を見張った。
 被害者は相当の金持ちのようだ。ということは、点数稼ぎしか頭にない捜査一課のハイエナどもは、この事件が機捜の手から離れるのを手ぐすね引いて待っているに違いない。
 望月は機捜として抜群の検挙率を誇っていた。それを妬んでか、捜査一課の間では望月のことを『機捜のピラニア』と呼んでいる。そのダサいネーミングセンスは、恐らく世間的には老練と称される、取り調べに何かと人情話を織り込みたいジジイどもだろう。以前、火事のことを『赤犬』と呼んでいるのを聞いて寒気がしたことがある。
 機動捜査隊を『機捜』、捜査第一課を『捜一』と呼びやすくするために略すのであるなら分かるが、警察無線の盗聴を気にしなくてもよくなった今、不倫を意味する『靴重ね』や、全裸死体の際に用いる『観音様』という用語も、それはただ埃っぽくてカビ臭いものに他ならない。もし、彼らが制服の巡査のことを侮蔑的な響きを持った『アヒル』という隠語を使っているのを聞いたとき、黙って聞き流す自信がない。
 だから望月壮太郎は彼ら捜一のジジイどもを、彼らなりのセンスで呼ぶことにしている。彼らは望月壮太郎のことを<事件を骨まで喰い尽くすピラニア>と称したように、彼らを<機捜の残した屍肉を喰らうハイエナ>と、口には出さないがそう呼ぶことにしている。
 捜査一課にこの事件は渡さない。出世にそれほど執着してる訳じゃないが、ジジイどもがいい思いをするのは絶対に許せない。
 望月の奮い立つ全身に、俄然やる気が溢れてきた。

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Novel Editor