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ちまたでウワサのうちゅうじん 作者:桜亞

第3回   やってん
 
みんなの目がじっとこっちを見つめた。
「やってん、早く教えろよ。」
「そうよ。もったいぶらないでよね。」
 えにしとハカルがせかす。いつもこいつらの一言で誰かの噂話が始まる。
「じゃぁ、いいか。よく聞けよ。この前、俺が休んだこと、あったよな。」
「あの日は忘れらんないよ。」
 日暮が口をとがらせた。
「やってんがいたらうちのチームは絶対優勝してた。もちろん二組もさ。バスケットだけは勝とうなって言ったのお前だろ。なのに風邪だなんて。」
 えにしが日暮の頭を殴った。
「黙れよ日暮。やってんが話せないだろ。」
「そうよ夕暮。やっちの話一番聞きたがってたのはあんたでしょう。」
 ゴホンと俺は咳払いをした。よくえらい政治家がやる、あれだ。
「あの日にな。母さんの友達から電話があぅてよ。ほら、縦割り班の斎藤の三年のペア、
あいつの母さんに。ふんで何の話しだしたか知ってるか?」
「知るわけ無いだろ。」
 えにしが真顔でつっこんだ。
「どう?最近お宅のお子さん元気かしら。うち?うちのマザコンは今ちょっと風邪ひいちゃっててー。えつ?ううん。そうよほんとただの風邪。」
 ハカルのモノマネにみんなが笑った。こいつの舌はよくまわる。いくら聞いても飽きないほどだ。
「マザコンはよけーだっつーの。ん、でもそんな感じ。なんだ、ハカルももうおばさんだな。はるかおばーちゃん。」
 ハカルのキックが飛んできた。
「おば様たちの心理描写が上手だと言ってちょうだい。やっち。でもその電話がどう面白いの?」
「まぁ聞けよ。その子とそのネーちゃんの会話だったらしいんだけどな、あのさびれた神社あるじゃん。あそこの門をさ、なんでも宇宙人が開けたらしいぞ。」
 えにしとハカル、日暮が腹をかかえて笑った。
「ええー。あっ。それってもしかしてこの間門が早く開いたことあったけど。まさかあの時の事?冗談でしょ。」
「それそれ。笑っちゃうよな。あとさ、公園の近くにある美容院のさ。髪の長い男の美容師さん知ってるか?」
 ハカルと日暮が知らないと首を振った。
「知ってる。あのちょっとオカマ入ってる人だろ。母ちゃんも気持ち悪いって。」
「あの人な、ごみ出すとき必ず二回振り返るらしいぜ。」
 なんだよそれわっけわかんねえ、と言う風にえにしが顔を歪めた。
「その子達どっからそういう話になったわけ。三年生の子が普通お姉さんとする話?」
「何でも宇宙人から電話がかかってきたらし・・」
ピリリリリ。突然の携帯の音に俺たちは飛び上がった。放課後の教室。誰もいないはずだ。それ以前に携帯は不要物として、禁止されてる。
「誰のだろ。」
 ピッと着信音が途切れた。
「探して。ちくってやろ。」
俺たちはそれぞれ手近な列を順番に見ていった。汚ねぇなぁ。この机。って、俺のじゃねえか。
「ない。おいあったか。」
 日暮が声をかけた瞬間、教室に大声が響きわたった。
「こらぁ、こんな時間までなにしてる!」
 ハカルが反射的に言い訳をした。
「すみません。ちょっと忘れ物・・・。」
 ところが、そこにいたのは一組の山森先生だった。ハカルが何だという顔で口をつぐんだ。
「下校時刻は過ぎてるだろ。まったくお前等四人と来たら。」
とか言いながら先生の顔は笑っている。そうだ。先生はこういう話好きそうだな。
「先生。俺たち今、宇宙と地球の関係について話し合ってたんだ。」
「だっさ。違うわ先生。壮大なる宇宙とちっぽけな銀河系の星地球と、私達に課された役割について議論してたのよ。・・ちょっと長すぎたわ。」
 先生ははっはっと笑うと、こう言った。
「お前等のする事は帰って宿題でもすることだな。地域新聞は仕上げたのか?」
「一時間持て余したわ。」
「やる気なし。」
「ぼちぼちかなぁ。」
「ちゃんと今日の五六時間目に仕上げた。それより先生聞いてよ。三年生の誰かんところに、宇宙人から電話がきたらしいよ。」
「またいたずら電話か。今度は宇宙人?教頭に伝えとくよ。」
 先生はにこにこ笑っている。
「あとさ。学校の前の何とか廟っていう神社の門が早く開いたりさぁ。」
「気持ちの悪い人がごみ出しのときにUFO呼ぶんだって。あと、商店街の看板の落書ききれいにしたり、風に乗ってお茶屋さんフッ飛ばしたり。傷もどうのこうの言ってたな。わかる?宇宙人って、いろんな所に潜んで地球の異常現象を引き起こしてるらしいぜ。」
 ハカルとえにし、日暮がまたもや笑った。
「そうかあ。何だそれは?また何かの流行りもんか?」
「違うよ先生。ほんとだって。な。それを俺たち話し合ってたんだ。」
「時間のたつのも忘れてね。そうだ。先生、このクラスの誰かが携帯持ってきてるのよ。探したけど見つかんないの。先生しぼってやってちょうだい。」
「宇宙人だとか、異常現象だとか。今度は携帯か?お前達も忙しいな。それでその携帯だが・・・。」
 山森先生は二組担任の高田先生の机のそばに寄った。そして一番上の引き出しを開けると、少し古い型の携帯を取り出した。
「高田先生、さっき職員室から携帯に電話かけてたんだ。きっと忘れていったんだな。後で届けといてやろう。よし、お前等もうおしゃべりがすんだならさっさっと帰れ。宇宙人に連れて行かれるぞ。」
「日暮夕暮は連れて行かれてもいいわ。」
「はるかこそ連れて行かれてその舌ちょん切ってもらえよ。」
「あんたが寂しがるからやめといてあげる。しょうがない。みんな、帰ろ。」    
 ハカルの一言に、俺たちはしぶしぶ教室をでた。日暮はえにしにこづかれながら。
「先生。せっかくの私達の議論を中断したんだから、それなりに職員会議で話し合ってね。明日配られる宇宙人についてのプリント、楽しみにしてるわよ。」
「まかせとけ。下校時刻は守りましょうって書けばいいんだろう。」
 とたんにまた高田先生の携帯がなった。
「おっと、早く職員室に戻るか。」
 山森先生の声に俺は階段を降りていった。
 後ろからえにしと日暮がプロレスをしながら追いついてきた。ハカルも笑いながらやってきた。
 外はだいぶ明るくなった夕暮れ時だった。季節によって長さを変える太陽。ホントに宇宙人でも出たら面白いのになぁ。





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Novel Editor by BS CGI Rental
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