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ちまたでウワサのうちゅうじん 作者:桜亞

第2回   ママ


その日は朝から雨でした。
 私、普段はママと呼ばれています。今日も渋る子供達を学校に送り、何とか夫も会社に追いやりました。(まあ、私ったら何て口が悪いんでしょう。)この気だるい天気の中、朝食の後片付けを終え、掃除機も掛け終わりました。こうしても夕方、子供達が帰ってこれば、また家中砂まみれになるというのに。 
 私も変化の無いものです。
そんな私のところに、今日は一本の電話がかかってきました。また上のお姉ちゃんに対する「塾」とやらの勧誘でしょう。一体そんなお金が我家のどこにあるというのやら。長いこと、電話は留守電となっております。今日も、もう何回も繰り返したテープを、電話は飽きもせずに流しだしました。
「お名前とご用件をお話ください。」
 たいていの業者はここで電話を切ってしまいます。そのくらいの用件なら、かけてこないでもらいたいですね。主婦もなかなか忙しいものなのですから。あの「ピー」という音、心臓に悪いったらありゃしませんもの。
「もしもし?さっちゃん?あたしよ、理恵よ。出てちょうだい。」
「理恵ちゃん。」
 理恵ちゃんは私の友人です。私の上の子と一つ違いで、小学六年生の息子さんがいます。
「いやぁね。まだ留守電してるの。どう?最近。お子さん、元気にしてるのかしら?」
「ええ。二人とも、学校嫌がってるみたいだけど、なんとか。そっちは?」
「こっちもまぁまぁね。でも昨日から熱出しちゃってさぁ。今日は学校お休みしてるの。
ただの風邪なんだけどねぇ。こんな季節に。今日は、球技大会の日なのにって、騒いでたよ。」
「そういえば言ってたわね。六年生はバスケットだっけ。」
「三年生はたしか水曜だったのよね。」
 理恵ちゃんはうんうんとうなずくと、急に声をおっきくして言いました。
「こらぁ。ちゃんと寝てなさい。もうすぐおかゆできるから待ってな。」
 ひとしきり文句が聞こえた後、理恵ちゃんが困ったように笑いました。
「ごめんね。この子ねぇ。六年生にもなってあたしにべーったりなのよ。男の子なのに信じられる?いわゆるあれね。マ・ザ・コ・ン。あたし達の時とは大違いよねぇ。男の子っつったら、朝から晩まで家にいないものなのに。
 あぁ、はいはい分かってるわよ。今は風邪。寝ときなさいって。」

 電話の向こうから怒ったような声。みんな感じることは一緒なのです。
「私のとこも一緒よ。上の子も下も、ずーっと家にいるんだもの。けんかしたかと思えば、五分後には話し合ってるのよ。時々私と一緒に。この前もそうなの。で、何って言ったら、地球の将来やら、宇宙人やら、文明が低いの高いの。そんな事ばっかり。完全に弟のペースにお姉ちゃんが合わせちゃってるのよ。ほっときゃいいのにまた難しいこと言って話しをヘンな方向に持っていっちゃうの。三年生相手に何が面白いのかしら。誉めたりけなしたり。まぁ大体けなしてるんだけどね。」
「あはは。いいわね。聞いてたら楽しそうじゃない。現役中学生と小学生が語る宇宙の神秘か。本にしたら儲かるかもよ?」
「そう。二人ともよく本読むでしょう。表現が変なのよ。難しい言葉ばっかり。そのくせ簡単な言葉で話が詰まるのよ。まぁ本人達は詰まったなんて、気付いてないかも知れないけれど。」
 電話の向こうからまた声が聞こえます。今度は何だかワクワクしているようです。
「ええ?あぁ。あのね。宇宙の話ってどんな話?うちのマザコンが聞きたがってるの。」
 すると慌てて否定する声が聞こえてきました。子供ってどうしてこう、否定するのでしょうね。うちのも。
「さぁねぇ。はじめの方はよく知らないんだけど、なんかいたずら電話があったみたいでね。そっからどうしてか、人間の、まぁあの子達に言わせれば宇宙人、の文明がどうのこうって。あの子達が心配したところで、どうなるか知らないけど。それからねぇ。異常現象がなんのって。地球にひそかに来ている宇宙人の仕業だって言うの。あの馬鹿げた本のせいだわ。きっと。それから、あの子達流の異常現象を並べ立ててたわ。例えば?っそうねぇ。あの小学校の前の陰気臭い神社?そう、あれよ。あそこの大きな門あるでしょ。あれがね。普段は九時に開くのに、この前に八時に開いたっていうのよ。そんな。なんでもないことなのに。えぇ。あと、あの美容師のヘンな人。そうそう、あの尻尾髪。あの人がね。ごみ出すときに必ず二回振り返るって。で何だったかな。UFOを・・。見てる。呼んでる?うん。多分。来るって言ってたもの。
 後。そうあの商店街のペットショップ?看板が派手じゃない。それがね。なんかこの間にあったあの風で吹き飛んじゃったらしいのよ。そう。一体どんな工事よね。えっ。ちゃんとついてた?まぁ子供の情報なんて、そんなもんよ。それが落書き消されてどうのとか。えっ。あれホンとに落書きだったの。あんなに高いところにあるのに。危ないわねぇ。でもあれほどの落書きを消すのって相当体力要るわね。・・。そう。でも消えたって。あれ。傷だったっけ。あぁ、それはお茶屋さんよ。
 うん。そうねぇ。いつの間にかそんなこと考えるようになったのよねぇ。えっ。言う?やっぱりそういうこと。へぇ。子供の世界も色々複雑なのよね。えっ。あらあら。そう早く作ってあげなさいよ。うん。そうね。じゃあ。はい。お大事にね。」
 ツーツー。何でもおかゆに火がかかってなかったそうです。私としてもつい長話をしてしまったわ。それにしても理恵ちゃんって、聞き上手だわ。最後の方。私ばっかり一人でべらべらとしゃべりたてて。何だか悪かったわ。今度、またお詫びの電話でもいれましょうか。今度は理恵ちゃんの話を聞く事にしましょう。理恵ちゃんのところもよくお子さんとしゃべっているから、何か面白いことがあるかもしれないわ。あっ、理恵ちゃん、ご用件は何だったのかしら。

 私、普段はママと呼ばれています。再び家事に追われながら、子供達の帰りを待ちます。


 今日のおかずは何がいいと思いますか?



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Novel Editor by BS CGI Rental
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