「もしもし?」 「・・・・・・。」 「もしもし?」 電話の向こうから返事はないらしかった。 お姉ちゃんはがちゃんと電話をもとにもどすと、怒りながらソファーに腰掛けた。 「信じらんない。いまどきいたずら電話なんて。何考えてんのかしら。」 お姉ちゃんは今、機嫌が悪いのだ。 「信じられない事なんて、この世の中いっぱいあるよ。」 僕はお姉ちゃんの横で優しく言った。お姉ちゃんは今年から中学生になる。仲のいい子と離れちゃうらしい。それはとても辛い事だと僕は推測する。 「お姉ちゃん。宇宙人ているでしょう?何でもこの本によるとねぇ、世の中の不思議な事は全て地球にひそかにやって来ている宇宙人の仕業らしいよ。・・・ていうことは僕達は近くに宇宙人がいるのに何も知らずに悠々と生活しているってことか・・・。だめだなぁ、地球人は。もっと文明を発達させて、宇宙の文明に追いつかなくちゃ。学者達は一体何をやっているんだろう。小学生でもわかる真実に気付かないなんて。やっぱこの世にはぼくみたいな才能が必要なんだな」 「ごんた博士。お言葉を返すようですが、今地球はこれまでにない大変な危機を迎えているのですよ。それらは一重に我々地球人の著しい文明の発達のせいであります。あんたみたいな人間優越主義者がいるから今の世の中がこんなにばかげたものになっちゃたのよ。後もう一つ。地球人も宇宙人よこのバカ。」 お姉ちゃんは全くナンセンスな一般論を並べたてた。ではなぜ宇宙人は自分達の土地を失わず、地球にまで足をのばせるのか。答えは一つ。文明のたかいからに違いない。 「すごいなぁ。僕も宇宙のどこかの星に生まれればよかった。」 「地球も立派な宇宙の星だわ。それにどうしてその宇宙人は私達にメッセージでも何でも送ってこないのよ?地球からのメッセージと入れ違いにでもなったのかしら?」 「もしかしたら言葉をもたないかもしれない。地球人だけかも。言葉みたいなまどろっこしいことしてるの。」 「やっぱバカだわ。」 お姉ちゃんはようやく僕の言うことを分かってくれたようだ。 「もしかしてさっきの電話は宇宙人からの友好関係を結ぼうっていう電波だったかもよ。家の電話が受信したんだ。お姉ちゃん、何か感じなかったの?こうテレパシーみたいな。あっ、そういえば僕、今日気付いたんだけどね。学校の前の神社、いつも九時から開くのに、今日は八時から開いてたんだよ。あのでっかい門がだよ。あれはきっと宇宙人が門を開けたんだ。UFОが来るかも!」 お姉ちゃんはけらけら笑った。この笑いは僕知っている。ごんちゃん。と呼ぶパン屋のおばちゃんの笑いだ。バカにしてるな。 「それだけじゃないよ。僕は見たんだ。あの商店街のお茶屋さん、看板に落書きがあったはずなのに、もうすっかりきれいなんだ。それから近所の美容師のお兄ちゃん。最近ごみ出すときに必ず後ろを二回振り返るんだ。あのへんてこりんな長い髪をさらーつてしながら。昨日の風知ってるでしょ。あの風なんて川の近くにあるペットショップのくしを運んできたんだ。あのけばけばしい色の。後、雲あるよね。最近高いところにあると思わない?違うな。きっと空が低くなったんだ。宇宙人が空を圧縮してるんだ。」 「空を圧迫。多分あんたの言いたいのは。秋になると空は高くなるって言うけれど、低くなるの?春になったら?」 お姉ちゃん、興味なさそうにしてるけど、あれはきっと、もっと聞きたいんだな。素直じゃないんだから。 僕は手に持っていた本を開いてみた。なんたらかんたらさんっていう人が書いた本。 「地球にひそむ宇宙人」 なんてかっこいいんだろう!この前分かったことだけど、このなんたらさん。実は名前が「ごんた」って僕と同じ!でもひらがなじゃなくて、もっと難しい漢字。なんてったってこの僕が読めないぐらいのだもの。きっと大学院で習う字なんだ。まぁ、お姉ちゃんが読めたのは偶然だね。 「もう宇宙人のしたことはないの?ごんた博士。」 「ありすぎて言い切れないよ。」 「なんで宇宙人がする事はたくさんあるのに私達は気付かないのよ。」 「そりゃ一重に僕等の注意力不足。まぁ僕を除いてだけど。」 「宇宙人は地球を侵略したりしないの。」 「お姉ちゃん。テレビの見すぎだよ。こんな星、どんな宇宙人が欲しがるっていうの。」 これだから豊かな生活って困る。そんなに戦争したいんだったら、おばあちゃんに仕掛けたらいいんだ。あのやかましい口を閉じてくれるかもしれない。平和ボケってやつだね。 「あんたって平和ボケしてるわねぇ。こんなせまい家にこもってそんな売れない本なんて読んでるから、地球がつまらなく感じるんだわ。地球は広いのよ。違う。人間って小さいの。広い宇宙に憧れ抱くのは勝手だけど、地球を悪く言うもんじゃないわ。今にしっぺ返しを食らうわよ。」 平和ボケは僕が先に使ったのに。やっぱまどろっこしいなぁ。言葉ってのは。 「もしかして、地球の異常現象を引き起こしてるのも宇宙人の仕業かなぁ。僕らは宇宙という大きな舞台の隅っこにある操り人形ってこと!そんなぁ。僕の輝かしい未来も糸の先にひっついてるだけなのかなぁ・・。」 「正真正銘のバカだわ。せいぜい私達はその人形のノミってところね。」 ノミって、あの大工さんの使うノミ?大工道具のこと?僕にはそれだけの未来しかないのか・・。いいや。ぼくは負けない。 「僕は大きくなったら学者になる。そして僕の未来を僕の手で作るんだ。」 お姉ちゃんが拍手をしてくれた。 「根本的にはバカの塊だけど、その精神は素晴らしいわ。姉ちゃんもあんたを見習う。なるほど地球を飛び出すってか。スケールでかくて逆にあほらしいわ。」 そんなに誉めなくても・・・。いやだなぁお姉ちゃんひと乗せるのが上手なんだから。 「いつか僕も他の星に行って宇宙人になれるかなぁ。」 お姉ちゃんも遠い空をみあげた。 「他の星から来たら宇宙人なの。あんたの世界には脱帽するわ。もしそうなったらちゃんと地球の素晴らしさを紹介するのよ。あんたの理屈じゃ言葉使うまどろっこしい宇宙人は私達だけなんだから。」 だつもう?宇宙人はすべすべのぬるぬるなんて思ってるのかな。全く進歩がないんだから。 「そうだね。やっぱ黙って異常現象起こすより、ハローって言った方がいいもんね。あっ、思い出した。この本にも書いてたけどね、あのなんだっけ。桜の花、あるじゃない?」 お姉ちゃんはちらりと横にかけてあった新しい制服を見た。そう。もうすぐ桜咲くもんね。そこで、僕はまた見つけたんだ。この地球にひそかに来ている、宇宙人達が引き起こす、不思議な異常現象のことをさ。
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