彼女からの誕生日プレゼントは、大得意のクッキーだった。 甘いのが苦手だと知ってる彼女はいつもは甘くないクッキーをくれるはず…なのに 何故か今年は、めちゃくちゃ甘い…クッキーだった。
「美味しい?」 大きな瞳をクルリと動かした少女は、俺の顔を映し出した。 「う…うん。」 “甘い”なんて言えるはずもなく、俺は押し込むように残りのクッキーを口に入れる。それを見ていた彼女は少し淋しそうに俯くと、今にも消えそうな、小さな小さな声で呟いた。 「やっぱ…美味しくない?」 不安そうに俺を見上げて、彼女はクッキーの残った欠片を口に放り込んだ。 堅すぎないクッキーを、ゆっくりと噛み解しゴクリ…と飲み込む。 「甘くて美味しいじゃない。」 ちょっと不機嫌になったのだろうか、頬を膨らましてそう言った彼女はいつものジンジャークッキーの事は忘れているのだろうか。 彼女よりも、俺の方がずっと不機嫌になりたいぐらいだ。 彼女と俺の間の空気が、一瞬生ぬるい風がながれたと感じたのは俺の気のせいじゃないはずだ。 その様子を悟ったのか、彼女も眉間に皺を寄せて何かを考えているようだ…そして、はっと何かに気が付いたように顔を上げた。 「あ…まい?」 上げた顔をそのまま、俺に問い掛けるように首を傾げた。 〜うん。 俺は頷いてみせる…どうやら本当に忘れていたらしく、それはそれでどこか淋しい物もある。 「ごめん!!間違えた、こっち、こっち。」 カバンの中から今のと同じラッピングのされた袋を取り出すと、俺に押しつけた。 「それはちーちゃんにあげる方だった…。」 もらった袋を、かさかさと広げる。今の話からするとこっちが甘くないクッキーなのだろう。 クッキーを一枚、かじる。…確かに 「甘くない。」 ポツリ、呟いてみた。 彼女は良かった、とでも言いたそうな安堵の表情を浮かべると、足元にあった小さな小石をつま先で蹴った。 「ゴメンね、間違えて…。要、怒ってる?」 「〜大丈夫だよ、涼がわざと間違えたわけじゃないのは知ってるから。」 俺が笑うと、彼女も顔いっぱい、笑顔に変える。 「ありがと、大切に食べるわ。」 一枚、袋から取り出すとポイッと口の中へと放り込んだ。 俺にしか聞こえない、クッキーを噛むサクサクとした音、甘いのが苦手な癖に、彼女のこのクッキーだけは美味しいと素直に思えるのだ。 「美味しい?」 大きな瞳をクルリと動かした少女は、俺の顔を映し出した。 「当たり前だろ。」
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