■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

21-ドロップ 作者:夏麻

第1回   21-ドロップ(安藤 壱依×真原 加水)

 笑った俺の口の中へ、君がドロップを放り込む。
 その姿が愛しくて愛しくて、思わずギュッと抱きしめる。
 放課後の教室、何分も、何分を抱きしめ合った。

「安藤く…ん、苦しい。」
 ケホ…。 一つ、咳き込む君に気が付いて、ようやく腕を解いた。
誰にも渡したくないなんて言う本能が、勝手に動いてくれたようだ。
「ごめん」
 急いで離した俺に、君の満面の笑みが返ってくる。
「でも、居心地良いんだよ。」
 その笑い方が、可愛いんだ。
バックを持った君は“帰ろう”という素振りを見せる。
そんな彼女に促され、仕方なく俺も帰り支度を済ませた。
「はい、あーん。」
 彼女が口を大きく開け、それを見た俺もつられて大きく口を開いた。
ポイッ。
 一瞬見えたのは、オレンジ。次の瞬間、見た色と同じオレンジの味が口の中に広がった。 「ドロップ」
 にこ、とまたあの笑顔。
俺が君のその笑顔に弱いの知ってて、きっと武器にしてるのだろう。
俺の理性がプツリと切れ、その糸の結び目を直しているうちに、いつの間にか腕の仲に君がいた。
「…安藤くん?」
 “上目遣い”という最強にして最大の武器を使うなんて…卑怯だ。
「〜加水、可愛い。」
 ポツリ、と彼女の耳元で呟いた。「安藤くんも可愛いよ?」
間髪あかず、彼女が答えた。
お互い顔を見あわせ、一回笑い静かに俺の左手と、彼女は自分の右手をつないだ。
「帰ろっか。」
 どちらともなくそう言うと、教室を並んで後にする。
夕暮れ太陽を背中にしょい、愛しの彼女と、愛しの彼女を持った俺は歩き始めた。
隣の彼女のカバンからは…相も変わらずカラカラと、ドロップ缶が鳴っていた。

次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections