ドアを開けると彼がいて、あたしを見ると笑顔になる。 「お帰り。」 いつからだろう、この光景が日常になったのは。
暑い日、真っ青な青空に光る太陽があまりに眩しくて、目を瞑りたくなる程だった。 汗が流れる事は何故か無く、ジメジメとした暑さとは違ったカラッと晴れた日だった。 いつも通り、彼との帰り道。 暑いにもかかわらず離れる事のないこの右手は、これからのあたし達の未来を表わしているようで、なんだか嬉しくなる。 「それにしても暑いな…遊芽、大丈夫か?」 ん?首を傾げて彼はあたしの心配をする。 その、上目遣いが可愛いのだ。 「大丈夫だよ、雪の方こそ大丈夫?」 はたから見ても仲の良いカップル。いつまでもこの関係は続くと、お互いちゃんと信じている。 「うち、寄っていく?」 学校から近い彼の家、暑い時や雨の時は彼の家にいつも逃げ込んでいた。 「行く〜。」 意気揚々と声を弾ませる。 一人暮らしの彼の家の雰囲気は、大好きだ。 独特の…というか彼の雰囲気が家全体を包んでいるようで、凄く安心する。 自分の家よりも居心地の良い所があるとは思わなかった。彼の家に行くまでは。 「ただいま。」 「ただいまぁ。」 彼につられて、帰宅の言葉を放つ。 振り向いた彼がちょっと笑いつつ、靴を脱ぎ捨てた。 間違えた事に気が付き、それ程恥ずかしくない事に照れた。 案内された彼の部屋、あたしのお気に入りのクッションは所定の窓側に。 ポスンッ。…座ってみる。 数分後、いつも通り彼があたしの大好きなアイスミルクティーを氷二個のグラスになみなみと注いでくる。その後は、いつも通りテレビをつける。…筈が、今日はあたしの隣に立ったまま、動かずにいる。 「雪?」 〜ん。数秒経って、頬を赤く染めた彼が右手をずいっっと目の前につきだした。 同じく右手を差し出して受け取ったものは…「あげる。」 彼の視線が、あたしから逸れた。ゆっくりと掌を広げるとそこには… 「雪っ。」 驚いたあたしが彼の方へと向き直る。 「特別だから。」 まだ赤い頬を必死で隠しながら彼は呟いた。 あたしの掌には、白いうさぎの小さなキーホルダーがついた…彼の家の鍵。
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