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10-鍵 作者:夏麻

第1回   10-鍵(月島 遊芽×神田 雪)

 ドアを開けると彼がいて、あたしを見ると笑顔になる。
 「お帰り。」
 いつからだろう、この光景が日常になったのは。

 暑い日、真っ青な青空に光る太陽があまりに眩しくて、目を瞑りたくなる程だった。
汗が流れる事は何故か無く、ジメジメとした暑さとは違ったカラッと晴れた日だった。
 いつも通り、彼との帰り道。
暑いにもかかわらず離れる事のないこの右手は、これからのあたし達の未来を表わしているようで、なんだか嬉しくなる。
「それにしても暑いな…遊芽、大丈夫か?」
 ん?首を傾げて彼はあたしの心配をする。
その、上目遣いが可愛いのだ。
「大丈夫だよ、雪の方こそ大丈夫?」
 はたから見ても仲の良いカップル。いつまでもこの関係は続くと、お互いちゃんと信じている。
「うち、寄っていく?」
 学校から近い彼の家、暑い時や雨の時は彼の家にいつも逃げ込んでいた。
「行く〜。」
 意気揚々と声を弾ませる。
一人暮らしの彼の家の雰囲気は、大好きだ。
独特の…というか彼の雰囲気が家全体を包んでいるようで、凄く安心する。
自分の家よりも居心地の良い所があるとは思わなかった。彼の家に行くまでは。
「ただいま。」
「ただいまぁ。」
 彼につられて、帰宅の言葉を放つ。
振り向いた彼がちょっと笑いつつ、靴を脱ぎ捨てた。
間違えた事に気が付き、それ程恥ずかしくない事に照れた。
 案内された彼の部屋、あたしのお気に入りのクッションは所定の窓側に。
ポスンッ。…座ってみる。
 数分後、いつも通り彼があたしの大好きなアイスミルクティーを氷二個のグラスになみなみと注いでくる。その後は、いつも通りテレビをつける。…筈が、今日はあたしの隣に立ったまま、動かずにいる。
「雪?」
 〜ん。数秒経って、頬を赤く染めた彼が右手をずいっっと目の前につきだした。
同じく右手を差し出して受け取ったものは…「あげる。」
彼の視線が、あたしから逸れた。ゆっくりと掌を広げるとそこには…
「雪っ。」
 驚いたあたしが彼の方へと向き直る。
「特別だから。」
 まだ赤い頬を必死で隠しながら彼は呟いた。
あたしの掌には、白いうさぎの小さなキーホルダーがついた…彼の家の鍵。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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