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手紙〜letter〜 作者:夏麻

第8回   7.ゴメンの花束。

 何度云っても、君の心には届かない…。
    でも云いたいんだ。伝えたい…ゴメンね。

 声が思うように吐き出せず、俺は眉間に力を込める。
「頼、眉間に皺が寄ってる。」
 静かに、雪薇が笑って指さした。
「〜ごめん。」
 ようやく、その一言だけ零すことが出来た、言葉。
これが、再び出会った俺達が交わした最初で最後の言葉。
 それ以上何も云えず、彼女も云わず、二人必死に抱き合って涙を流す。
「会いたかった。会いたかったんだよ?」
 呪文のように何度も繰り返される言葉は全て雪薇のくれるものだ。
「〜。」
 何も云えず俺は、泣き続ける彼女を抱きしめ続けた。   愛してるよ。
 その言葉一つ、彼女にかけてやることは出来なくて。
あの時の説明も、言い訳も全て頭から吹き飛んだ。
考えていた色々なこと…彼女はもう俺のことを嫌ってるかも知れない、此処までこなかったらどうしよう…。
彼女を見た瞬間、頭の中は真っ白になった。
  「絶望とは孤独になった時に見える。
   希望とは、願いとは叶えてくれる誰かが居る時に持ってしまう。
   人は人がいると想ってしまうんだ。」
 アラン・ハスキーが頭の中に飛び込んだ。
 俺は、彼女が来てくれるという希望を捨てなかったのは、叶えてくれる彼女が居るからだ。
一人、心の中で呟いて、彼女を見た。
涙でボロボロの顔。そんな彼女の唇に、自分の唇を重ねた。
そして、持っていたカバンから一通の手紙を差し出し、彼女に渡した。
不思議そうな顔をしながらも、目の前に出された封筒を受け取ると、今度は不安そうに俺を見た。
 俺は目をつぶって頷いてみせると、彼女はゆっくりと封筒を開いた。
『弱すぎた俺から送る、本当に最後の手紙です。…』
 彼女の表情が曇っていくのが分かる。
それは次第に雨模様になり、彼女の大きな瞳から止まることのない涙があふれ出した。
君をこんなに泣かせてるのは俺だよね…。それぐらい分かるさ。………ゴメン。ゴメン。ゴメン。
「これ…嘘だよね?」
 …ごめん。
俺は微かに首を振ってみせる。
「嘘だって、云ってよ。」
 〜ごめん。
「なんで…。」
 ごめん。 ごめん。
何度謝っても、君がここに来てくれたということ以上の奇跡はきっと起こらないから…。
 ごめん。
何度も、謝る俺を見て君は、更に涙を零した。
「こんな事なら、手紙なんて欲しくなかった。」
 そう云われること…覚悟してた。だけど…君に会いたかったんだ。
もう一度。 もう一度。
 何度も涙を流した君はゆっくりと立ち上がり、俺の前から姿を消した。

俺の…君への手紙をその場に落として…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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