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手紙〜letter〜 作者:夏麻

第6回   5.僕らはここにいる。


 手紙を綴ったのは俺の勝手な自己満足さ。

 俺は何度君への手紙を握りつぶしたことだろう。
何度書き直しても、伝わりきれない自分の言葉。こんな事なら文法とかtyんとやっとけば良かった。って今更ながらの後悔。
 それでも君は、俺のことを少しでも分ってくれていると自惚れてもいい?
 君の シトラスの香りのする髪
 君の 心を見透かすような瞳は瞬きをする度に取れてしまうかと思う程、ビったから俺は今日まで生きて来れた。それだけは忘れないで欲しい。
 笑ってる…
 俺、一番始めに君と言葉を交わした時も、笑ってた?
美人さんだったんだ、綺麗な人を見つけたと一人で騒ぎ、気が付いたら君に話し掛けていた。
 今、そんな君への手紙を書いているよ。
この、全ての文に君への愛を込めて、今君にこの愛が届くことを願って今、何度も何度も君への手紙を書き直してる。
ー玉のようにまん丸だった。
 小さな仕草さえ俺の物にしようと、必死で君のことを見ていた。
    「笑ってる頼が好き。」
 君が俺に云った言葉、覚えてる?
っていうか忘れるなんて薄情なことはしないよな?
雪薇が俺にそう言 俺はただ、信じたかったのだろうか。俺のことを忘れないでいてくれる人がいるということを…俺の居場所がそこにあるということを…。
 俺は今は此処にいるけど、此処には俺の居場所なんて物はないからね。俺の居場所は何度考えて、遠回りしてもやっぱり、君の隣の他にはないからさ。
あ、『君をつれて』って曲、知ってたら嬉しいな。
あの曲の通りに君をつれて俺は駆け出したかった。だけど、やっと16になる俺にとって、君の未来はデカすぎた。
そんな、君からの重圧-プレッシャー-を避けるために逃げる俺を、許してください。

「頼音、明日出発だよ、分ってる?」
 「分ってるよ、俺の物を奪いに行くんだろ。」
息子ながら酷い言葉を口走ったと思った。でも、この苦しさを紛らわすためならどんな極悪人にだってなれる。
「…ごめんなさい、お母さんが悪いのよね。」
 俺の唯の八つ当たりに、正面からぶつかり、身に覚えのない事で謝らせた母さんの細い肩はカタカタと震えていた。…不安を隠せないのは、俺だけじゃなかったんだ。
「〜ごめん。」
 ポツリ、謝罪の言葉を零した。
俺の家族も色々あって、もう日本にいることがムリになった。
一刻も早くアメリカへと行かないと大変なことになる…とさえいわれた。その元凶は…全て俺。
 何日も…何年も。もしかしたら一生。
雪薇には、一昨日の卒業式の日、別れを告げた。いつでも笑顔を伊勢…くれた彼女の表情から、その笑顔は全て消えて無くなり、大粒の泪を何粒も、何粒も落として俺を見た。
 ごめんね。
その一言じゃ伝えきれない思いが俺の中であふれ出して
「自分のこと優先して。」
 雪薇の表情、未だ覚えてる。
瞳を大きく見開いて、唇の端をキュッと噛み締め、俺が一体何を告げようとしているのか分ったようだ。
 俺は 別れ を求めているのだと。 理由は何も云えなかった。
 アメリカへ行くから?
そんなの理由じゃない。唯の言い訳だ。
…きっと俺は耐えられないのだろう、隣に君のいない生活に。そして遠く離れた君の気持ちを何時までも自分につなぎ止めている自信が。何より、次第に別の人を好きになり、心が惹かれていく君を見たくなかったんだ。
それならいっそこのまま…このまま全て失くしてしまった方がいい。
 俺は君が好きで、君も俺が好き。その気持ちのまま、失くした方がいいんだ。
 彼女は涙を自らの手で拭うと、静かに口を開く。
唇は震えていて…次の瞬間、雪薇がもう少し言葉を発するのが遅かったら、俺は…君を抱きしめていただろう。
“今のは全部嘘だよ、冗談に決まってる。君のいない人生なんていられないのだから。”
 捜査権で、君を抱きしめ、そのまま現実から逃げていた。
「…笑って、頼。」
 どんな気持ちで雪薇、君はその言葉を口にしたの?
俺には分るはずが無く、今となっては分らないままだ。
俺は、彼女の願いを叶えるべく…静かに微笑みを創る。
雪薇は満足したかのように笑い、俺の瞳を見据える。
「それでもあたしは、夏蜜柑を愛しているから。」
 彼女の言葉は魔法だ。
たった一節の言葉で俺は幸せすぎる程、幸せになった。
彼女の話すことは凄いパワーを持っていると思ったのは、俺の思い過ごしかも知れない。雪薇の事が好きでたまらないから、そう思ったのかも知れない。
 けど、これだけは君にも知っておいて欲しいんだ。
最低なほど我儘でバカな俺だけど、君を嫌いになってしまったわけでは無いから。…今でも君を愛しているし、多分、永遠に君を見放すことは出来ないと思ってる。
だけど、云わなきゃいけない事もあるんだ。
       「別れよう。」

 ふぅ。
 俺の思い出話は此処までにしておこうか。
情けない俺、みんな笑ってくれ。
自ら手放した綺麗な鳥を求めて、手紙を書いている。
自ら尊敬する推理者の事件の真似事をして、君に伝えたいこと伝えようとか、狡いこと考えている。
 でも…自惚れても良いかな?
こんな俺でも君は、もう一度好きなってくれる…と。
 君は、今。俺からの手紙を探してる頃かな、ねぇ。

今でも、俺のことを覚えていますか?

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Novel Editor by BS CGI Rental
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