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手紙〜letter〜 作者:夏麻

第4回   3.ハジメはこの言葉から

 
 ハジメはこの言葉からね。
         「真実は変えられない。」

 彼からの手紙を受け取るまで、彼がどれほどのことを考えていたか何て知らなかった。
どれだけ長く一緒にいても、お互いのことを考え理解し、頭に入れられる程あたし達は器用な恋愛をしていなかった。
 今、手に入れた恋に依存し、手放したくない一心でお互いの幸せだけを願って、完全な幸せだけを願った付き合いをしていたから。
「自分のこと優先して。」
 優しく笑う彼に云い返す言葉は一つもなかった。
あなたもね。
 それはあたしが云いたかったけど、彼に伝えきれなかった言葉。でも、あたしの見てきた彼はそう云っても多分、全然気にしないだろう。
 何云ってるんだ?
それだけを口から零す。そして、また軽く笑顔を創って
俺は自己中なんだよね、相手のこと考える程の余裕はない。
 …そう云うよね?
皮肉屋で自分をいつも悪く云う。それでも度々思う。
 学校の図書館でついつい『アラン・ハスキー』の小説を探している自分、確実な彼の影響。
午後一時の優雅なお茶に、よりにもよって苦いブラック・コーヒーを用意している自分。
 確実に形となっている彼。
どうしても一般論より理想論に偏り過ぎなのも、彼の影響なのかも知れない。
それでも、それでも。
 彼にはあたしの影響なんて一つもないんじゃないか。
そう思うと、胸が締め付けられる。それは、紛れもない真実。
 別れた自分を後悔して、もっともっと後で。彼のことを理解しようとしなかった自分にも、後悔する。

 小日向頼音からの手紙が届いたのはつい昨日の昼の出来事。
彼の手紙には「ごめん。」が九つ書かれていた。
一回も口にしたことの無かった謝罪の言葉が、十九行しかない手紙の中に九つ。
 あたしはその手紙から目を逸らした。
怒ってたから…?違う。
こんなに謝らせた、彼への罪悪感。
 涙が、知らない間に頬に伝わって手紙の上へと落ちた。
   ごめん。
 その文字が滲んでいく。
でも、それ以上後の事は覚えてない。
何をしたのか、一の間に布団に潜り込んだのか…とか、何一つ覚えていなかった。
 あったのは、何故彼と別れなきゃいけなかったのだろうという…疑問だけ。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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