人間は強き者と弱き者とに別れている。 俺は後者だ。紛れもない後者だ。
俺は毎日が平和に終わると思ってた。 いつものように『アラン・ハスキー』の本を読みながら、いつものように苦めのブラック・コーヒーを飲みながら、ゆっくりと年をとる…。 勿論、結婚して子どももいて。幸せに、幸せに。 中学三年の冬、それは唯の理想論にしか過ぎないことを知った。 俺にだって可愛い彼女くらいいたよ。誰にでも自慢したくなるぐらい、愛しい彼女。 つい、この間別れたばっかりの…恋人同士だよ。 自分のことを考えるよりまず、他人のことを考える彼女。 でもそれはいい加減やめだ。 自分のことを優先して考えて。 別れた時の台詞はこれだ。…俺だけの可愛い彼女は、よく笑うようになってから人気者だから、今ではきっと好きな奴でも出来ただろう? 卒業してからもう、随分経ったのだから。 俺の一般論を述べるのは簡単なことだけど、それはあくまで理想論としてしか捉えて貰えないのかもしれない。 だって、俺自身そう思うからね。 だけど、それでも俺に云わせて貰えば、彼女を傷つけない為に別れたんだ。 多分、人はこれを『逃げ』だと叫ぶだろう。うん、その通りだよ。俺は逃げたんだ。彼女から別れを告げられるのが怖くて。 さっきも話した『アラン・ハスキー』覚えてる? 彼ならきっとそんな俺を見ても叱りはしないだろう。 唯、「情けない」と軽く微笑し、俺を見る。そして彼は続けるだろう。「それが本当にお前の真実なのか?」…と。その言葉は何十冊もある本の中で、たった一度だけ出てきた言葉。 それは地味に俺の心に突き刺さった。 彼の発した言葉の数々、殆ど覚えている。九割は云えるだろう。 云っておくが、『小説』が好きなわけじゃない。 『アラン・ハスキー』だから好きなんだ。 ホームズにしろ、アガサにしろ、名前しか知らない。種類別にしようとしてもきっと俺はその中に江戸川乱歩にコナン・ドイルの名前も入れたろう。 そういう奴なんだ。 俺が好きな物なんて数えだしたらきりがない。 でも一つだけ『大切なモノは』と聞かれたら、胸を張って答えるだろう。 「君に送る全てのメッセージが、俺にとっては大切なのだ。」 ってね。 ちょっと、恥ずかしいかな?
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