忘れたくても忘れられない想いがある。 だけど、傷つけるだけなら忘れたい。
「ごめんね大槻。何度も相談のってくれたのに…結局ダメだった。」 3度目のコールで受話器先に出た大槻にそう告げた。 ホントに迷惑を掛け続けた相手にも関わらず、大槻はきっとあたしの話を親身になって、真面目に聞いてくれるだろう。 「…おーみちゃんがいいなら、俺は何も言わないよ。」 投げ捨てる言い方が大槻らしくなく、驚きのあまり受話器を落とした。 “何で?”“もうちょっと頑張りなよ”“大丈夫だよ” そんな言葉をかけてくれるのだと、勝手に想像していた。 でも実際は全く違う…冷たい言葉。 慌てた事を悟られぬように、急いで受話器を拾い上げ、 「うん、そう言う事だから。そろそろ日本に戻るよ。」 「ああ、そう。」 「…うん。それだけ。」 …励ましてくれると、思ってた。 「あ、そうだおーみちゃん。」 受話器を置く寸前、大槻が声を出したのが耳まで聞こえた。 今度こそ言ってくれると思ってた“もう少し頑張りな”を期待して、受話器を耳へと近づける。 「頼に、俺にも会いに来いっていってた事、伝えてくれた?」 果たして、大槻の話題は既にあたしの事から離れ、自分と頼への再会の話へと映っていた。 「伝えて…ない。」 ポツリ。呟いてみる。言葉と共に、一粒の涙が「3」の番号に落ちた。 「まじで?じゃあ帰ってくるなら、そのこと伝えてから帰ってきてね。」 素っ気なく、そして冷たく一方的に言い放った大槻は、今度は躊躇無く電話を切った。 「…。」 カチャン。 あたしも、大槻の後を追って受話器を置いた。 あんな言い方されて、もう一度電話をかけ伝言を断る気には到底ならなかった。 帰り支度をして、仕方なしに明日空港へ行く際に頼の所へよろう…と予定を変更する。 早急にベットに入り、目をギュッっと堅く瞑った。 明日は、何て云うか…どういう風に切り出すか…。 でも、頼の事を考えれば考える程、今日の事が浮かぶわけでもなく、ましてや明日のシュミレーションなんて出来るわけがない。 ちょっと前の、でもずっと昔のような…あれは幻だったのかと思う程、幸せだった頃の頼。 あの、完璧な笑顔を見せ、時にはそれを歪ませる。 頼の表情ほど好きなものはなかった。…なのに何でこんな事になっちゃったんだろう。 あたしは頼が好きで、頼もあたしが好きで。 …いつからそれが食い違ったのだろう。 考えれば考える程、答えは見つからず、頭が混乱する。 …もう考えるのは止めよう、今のこの現状が答えとなったんだから。 溜め息と共に、心に残ってたものを“諦め”と言う言葉で吐き出した。
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