クラスメイトだった。ただの、クラスメイトだった。 それも…さほど仲の良くない。
「好きなんやけど。」 軽く訛りの入った言葉の中で、彼はすんなりと、それはもう日常会話を切り出すかのようにあたしに言った。 「なぁ聞いとる?好きや言うてんねんけど…。」 唐突すぎて、告白されたという雰囲気など全くないこの空気の中、平然と彼は続けた。 「聞いてる…けど。」 取り敢えず今は、出された問い掛けに答えるだけ。それだけで、精一杯だった。 「どうなん?田村は俺の事嫌っとる?」 サバサバした口調に関西弁、意外と頭も良い彼が転入してきたのは先々月の…木曜日。 “何ぼさっとしとるん、遅刻やないか?” 通学途中のツツジが、あまりに綺麗すぎてあたしは魅入ってしまっていた。 その後、ブツブツ言いながらも自転車の後ろに乗っけてくれた彼の後ろ姿は、覚えている。 「あたし、峰くんに嫌われてると思ってた。」 素直に、そう告げた。あの日以来、一度も同じクラスにいるのにもかかわらず、目があった事が無かった。 変に避けられるわけでもなく、唯、波動が合わないだけだと思っていたけど。 「〜アホ、可愛すぎてよぉ見れないんよ。」 彼は袖口を顔の近くに持って行き、鼻から下を全面に隠す…が、見えてしまったのは真っ赤な彼。 「つつじ見とって遅刻なんて、転向初日から可愛え事言われたら、もう気になって仕方あらへんよ。」 頬を真っ赤に…あたしが魅入ってしまったあのつつじのように染まった彼を、可愛いと思ってしまったのは…不可抗力だ。 「…で?田村は俺の事嫌っとる?」 大きな瞳をクルリ、と動かして、あたしの可愛くない姿を映した。 「嫌っては…ないよ?」 疑問に疑問で返すなんて邪道な事をしても、彼はめちゃくちゃ嬉しそうに笑うものだから、ついつい“好き”なわけじゃない。と、訂正するのを忘れてしまった。 「ほんまやな?嘘ついたらあかんよ。」 彼の関西弁がくすぐったく感じる…けど、嬉しそうな笑顔をいつまでも振りまいている彼が、やっぱり可愛くて仕方がない。 「いつか俺の事“好き”や言わせてみせるからな。」 満面の笑みがあたしの瞳に映った瞬間、危なく口が滑る所だった。 この言葉を今言ったら、また嬉しそうな顔をするだろうけど、今は言わないでおこう。 だけど、いつか。きっと、いつか言うからね。 そしたらまた、今日みたいな満面の笑みをみせて“俺も”って…言ってね? あたしが“好きや”言ったら。
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