「おぉっ、ありがとぉ紗英ー。」 おかげでオリジナル完成だよぉ、とホントに涙を流しそうなぐらい紗英に感謝の意をみせた知恵は、レシピを持って職員室へと駆けだした。 「転ぶなよー。」 嬉しそうにはしゃぐ知恵の後ろ姿を見て、くすり、と微笑みを零した。 校舎と校舎を繋ぐ渡り廊下、空を見上げると入道雲顔を出し始める季節。 あれから、四年目の夏。 少年の姿を少しでも追いかけたくて、真似てみた未完成な金髪。彼のような純粋さに欠けるからだろうか、あの太陽のように眩しい金髪を忠実に再現する事は出来なかった。 「太陽。」 四年経っても消して薄れず残り続ける、この想い。 空に浮かぶ太陽を見ながら、思い出すは傍で笑っていた太陽。 「太陽が、どうしたの?」 突然、いつの間にか戻ってきていた知恵が口を出す。 「ん?いや、眩しいなぁって。」 「だって太陽だもん。」 何言ってるの、紗英。とでも言いたそうに笑いながら知恵は言った。 「でもさー。」 「んー。」 「太陽から見たあたし達って、どんなんなんだろうね。」 光の中に常にいる太陽。毅然とした態度で、人を導く印として輝き続ける太陽。 「太陽から見たら、自分が眩しすぎて周りが見えないのかな。それって、すごい孤独だよね。」 紗英がポツリと言った。 自分が光りだから、周りは闇にしかみえない…それは『一人』なのと一緒なんじゃないか。 こんなにも世の中は人で溢れているというのに、太陽はそんな存在知る事も出来ない。月の存在も、何も知る事は出来ないんだから。 それは…とても、淋しすぎる。 「うん。でも、太陽はずっと一つでいるから、それが普通なのかもね。だから『誰かが居る』って分からない限り、淋しいなんて感情生まれてこないのかもしれないね。」 知恵はにこっっと笑った。 「あたしには、紗英が居てくれて良かった。」 「なにをっ。あたしの方こそ。」 くだらない事を言って笑い合う友達が傍にいるという事はとても幸せな事だと思うけど、紗英の心の中にはいつでも、向日葵のように輝く少年の姿が残っていた。 「太陽も、眩しすぎて孤独だったのかな。」 ポツリと紗英は呟いた。 本当に、空から太陽が落ちてきたようだ。人なつっこくて、眩しくてそして…進むべき道へと導いてくれる。
今年の夏休みには、あの海岸へ行ってみよう。紗英は呟いた。 今まで怖くて怖くて行けなかったあの海岸。 誰も知らない、太陽と二人だけのあの思い出。 『ごめんね』と書かれた石垣があるあの海岸。 そしたら、分かるかも知れない。 あの頃には分からなかったあの時の事が。 尖ってた頃には分からなかった事。 丸くなってから行けば少しは変わるかも知れない。 今年の夏休みには、あの海岸へ行ってみよう。紗英はもう一度呟いた。
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