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サンムーンと夏。 作者:夏麻

第4回   理由。
「たーいひーあーそーぼー。」
 目標を見つけた事によって、随分スッキリした紗英は毎日のように砂浜にいる太陽の元へと走った。
「おう、サエ。」
 紗英の笑顔を見ると、決まって太陽はサエの名前を呼び、軽く右手を挙げ呼び寄せる。
…まるで犬を呼んでるかのように。
太陽はサエの話しを良く聞いてくれるし、楽しい話しも沢山してくるのにも関わらず、決して自分の話だけには触れる事は無かった。 一度も。
それでも紗英は一緒にいてくれるなら、それだけで言いと思っていた。
例え、名前しか知らなくても。
例え、実はロマンチストだという事しか知らなくても。
太陽の癖も、笑い方も、話し方も、紗英の中には既に住み着いているのだから。
「太陽、好き」
 あまりにも自然に飛び出した、突然の紗英からの告白。…否、突然なんかじゃなかった、きっと太陽は気が付いていただろう、紗英が自分に惹かれてる事を。また、自分も紗英に…。
「…ごめん」
 予想を反した太陽の返事は、紗英の気持ちに応えられないとの意を持った、否定の言葉。
紗英自身、自惚れていた箇所はあったかもしれない。
だけど、確実に太陽も紗英に惹かれていたはずだ。
「理由、は。」
「理由は特にない。」
 あれほど人の目を見て話す太陽が、一度も紗英の目を見ていない。
理由はない、で納得できる程さすがの紗英も単純ではなく、嫌いだから、とか対象外、とか何でも良かった。取り敢えず理由を欲しがった。
「あたしの事、嫌い?」
「サエの事は好き。」
 好き?ならどうして…?
更に問い掛けたい紗英の胸に、昨日までの太陽が脳裏に浮かび、何かを口にしてる。
『空気を読み取る人間こそ、本物なんよ。だからサエ、これ以上立ち入るな。って言う信号を感じたらすぐに引き返すんよ、それ以上行くと嫌われるから。』
 ふぅん、と人ごとのように軽く聞き流していたその台詞。
感じた。
 これ以上太陽には近づけないんだなって言う、デッドライン。そっぽ向いて、もう紗英には何の興味もない子どものように、新しい遊びものを探している。
でも、人間進み方は分かるけど、引き方はなかなか分からない。
「っでも、太陽。」
 悲痛な、叫びにも似た声。振り向いた太陽の瞳に映った、紗英の大粒の涙を流す表情。
「サっ…」
『あたしの事嫌っても良い、でもあたしは太陽が好き。これだけは忘れないで。どんなに月日が経とうと、どんな年数を重ねようと。」
 紗英はスクッ、と立ち上がると太陽に背を向け、走り出した。
こうでも言わないと、太陽は次の日、きっと何事もなかったかのように振る舞い、きっと何事もなかったんだと忘れてしまいそう。…それが、怖かった。
 蝉が鳴く数も大分減った夕方。突然、夏の終わりを告げるような雨雲が空を覆った。
激しい、雷鳴。夕立。
気が付けば、紗英と太陽が出会って一ヶ月が経とうとしている。
雨に濡れ、涙なのか雨なのか分からない雫が降り続く雨と一緒に、硬いアスファルトへと落ちると、堰を切ったかのように次から次へと流れ落ちる涙。

『人生、惹かれ合う者同士しか出会わない仕組みになってるんよ。でもみんな気づかん。だから、運命だって思う、けど運命、偶然なんかじゃない。全部必然の世の中なんよ。
サエ、必然なんやからきっと何かがある。だからその“何か”しっかり探さなだめだからな。』

『サエーサエー可愛いなぁ、お前。犬みたいで。』

『あほか、人生長い道のり、何百回でも失敗したらいいんよ。だけどその後で、しっかり学ぶ事が大事なんよ。』

 紗英の中の太陽が、くれた言葉のはしはしが、頭の中でクルクル回る。消そうと思い、頭を振っても…降っても飛ぶのは雫ばかり。運良く消えたと思っても、またすぐに現れる。
「必然でしか組み立てられてない世の中なら…ねぇ、太陽。あたしとあんたの“何か”は一体何だったのさ。もう、見失っちゃったよ。」

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Novel Editor by BS CGI Rental
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