眩しい…。 金髪…というには乏しい長い髪の毛を左右に揺らしながら、安藤 紗英(あんどう さえ)21歳は砂浜に裸足で降りた。 「懐かしいな、この海も。」 ポツリ。 淋しそうにそう吐き出し、遠く彼方へと続く水平線を見つめた。 「太陽、どうしてるかな。」 紗英の脳裏に浮かんだ、いつでも眩しく光る金色の髪をした少年。 まるで太陽という名前そのもののように光、眩しかった。 大きな茶色の両の瞳をクルクルと回しながら、サエ、サエ。とまるで犬を呼ぶかのように紗英の名前を呼んだ少年。 日暮 太陽(ひぐらし たいひ)四年ぶりに訪れるこの砂浜でも紗英は心のどこかで、少年が遊んでいるような気がした。 「いるわけない…か。」 分かってたよ。でも、期待せずにはいられなかったんだ。 とでも吐き出すように紗英はぷいっ、と太陽から目をそらした。 「たーいひー。あそぼー。」 背中を向けた太陽から、あの日の二人の笑い声が聞こえてきた気がしたのは…もちろん気のせいだったんだろう。 毎日砂浜に訪れる紗英。 毎日砂浜に待つ太陽。 サンダルを脱ぎながら紗英が、太陽に向かって毎日叫んだ言葉。 背中の太陽から、聞こえてきた気がしたのだ。
「さーえちゃん。」 専門三年となればやるべき事は増えてくる。 何をするにも全ては就職へと繋がり、内定へと繋がり目の見えない「何か」に縛り付けられてる気がする毎日。 「おっ、どした?」 その中で生活している紗英の中で「友達」とはとても癒しの存在だろう。 「課題終わった?あたし出来なくって、紗英にアドバイスもらおうと思ってさぁー。」 製菓学校で三年があるのもめずらしいと言われる中で、三年の課題はほぼオリジナル作品、既存品からの加工が主となっている中、創作力に優れていると教師達の間で噂されている紗英にとって、窮屈なくらいのプレッシャーを感じる毎日だった。 「終わったよ。今回はオレンジ風味の生地にしてみたけど…風味が出る代わりに今度は味の方がな…改良しようか悩んでるトコ。」 「オレンジかぁ…紗英って柑橘系多いよね。」 意外な所を指摘され、一瞬焦る。 夏の思い出、何にも変えられる事のない大切な、あの夏の思い出。 何よりもの宝物。 そんな一夏を表現するに、甘酸っぱい柑橘系の一体何を用いればいいというのだろうか。 「うっ…うん。好きなんだよね、みかんとかグレープフルーツとか。」 突然、早口になる。 「ところで、知恵はなに使いたいの?」 「んー。それがね、クラウンベリーの生地にしたいんだけど、そしたら……………。」
心の中に、大切に大切に、何十にも鍵をかけて大切にしてきた宝物。 誰とも分かち合えない、自分だけの、大切な大切な……あの、夏の日の事。 『甘酸っぱい柑橘系』と例える以外に、一体なんと例えればいいのか。 あの、夏の日の事。
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