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14-永遠の時 作者:夏麻

第1回   14-永遠の時(葉月 景×山崎 美羽)

 二人手を繋いで“永遠”を誓い合った。
 そんな事、敵うはずのない事だって知ってるけど、俺等二人は信じてた。
 キミが、俺の前から姿を消すまでは…。

 夏、君の好きだった向日葵が、大きな花をつけ太陽へと向かっている日。
キミがいなくなって三度目の夏。未だにキミがいなくなって初めて迎えた夏の事、鮮明に思い出す事が出来る。
 キミがいた夏より、その年の事の方が思い出せるんだ。
毎日、毎日泣き崩れ、キミを思い出しては何も出来なかった事を悔やみ、キミを忘れた日は一日足りとなかった。
「愛してるよ。」
 キミが俺に残した最後の言葉…あれは今日よりも暑い夏の日の事だったよな。
「花火したかったな、今年の夏も。」
 キミが呟いたその言葉に、“来年があるじゃん。”なんていう下手な慰めは出来なかった。
「そうだな。また、機会はあるさ。」
 声を振り絞りその言葉を伝える事でいっぱいいっぱいで、それ以上の事は何も言えずに横目でキミの様子を窺うと、淋しそうに笑って俯いていた。
「そうだね…。」
 その一言が、沈黙の幕を切った。数分間、キミの担当の看護師がようやくこの無言の時を掻き消してくれた。
「検査になりますので、お見舞いの方はお帰り願います。」
 天使の微笑みの欠片もない女性は、それだけ言うとさっさとキミを連れいていってしまった。
 一人の超された俺は、先程のキミの笑顔を何度も何度もの頭の中で、バカみたいにリピートする。
 “機会なんてもの、無いよ”そう訴えるかのような表情、キミはそんな顔をするような女の子じゃなかった。
 元気で明るく、いつも人を気遣う…そんなキミが大好きだ。
「景、あたし花火やれなくていいや。」
 キミが唐突に吐き出した言葉に俺は、笑って“そう?”と答えてみせた。
「その分だけ、景と過ごしたいから。」
 キミが照れたように頬を赤く染めながら、呟いた。それは小さな小さな声で。
「美羽…。」
「愛してるよ、景。」
 儚く微笑んで、俺に愛の言葉を告げたキミに何も返すことなく…それはキミと交わした最後の会話となってしまった。
 その日の晩、キミは静かに息を引き取ったね。…でも、幸せな…とても幸せな笑顔で。

 あれから三年経った今も、俺等は変らず恋人同士だ。
 夏には線香花火に火を灯し、冬には共に暖めあって。
 キミに振られる事は絶対無いし、しばらくは俺もキミを振る気はないから…。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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