白い紙に小さな字で“好きだよ”と綴り、君の元まで飛ばした。 あの細い指が俺の思いを上手くキャッチしたのを見て、どれだけ嬉しかったか。
「今日うちにおいでよ。昨日ケーキ作ったんだよ。」 笑顔で誘う彼女に、俺は頷いて答えて見せた。 更に、笑顔を深めて嬉しそうにした。 「ちゃんと食えるのか〜?」 俺の冗談にも“食べられるかな”と本気で返す彼女をついつい可愛いと思ってしまうのは、彼氏としての特権だよね。 帰り道は一緒に、並んで帰るのが俺等の毎日だった。 「ただーいま。」 ガチャリ、という音と共に開くドアは、まだ新しく軋む音などは一切しなかった。 「お邪魔します。」 いつもの事ながら、やはり礼儀は忘れられず、軽く顔を出した彼女の両親に会釈してみせた。 「真昼はあたしの部屋行っててね。持って行くから。」 階段を上ってすぐ右側に位置している彼女の部屋は、日当たりが良く昼寝には最高に適している。 俺のお気に入りのクッションを背にして、呆然と机に目をやった。 恥ずかしい。と行って、彼女は俺が部屋を見渡すのを拒んだ。 一人で彼女の部屋に座っているなんて、普段なら絶対にありえない事だ。 …ん? 不自然にひっくり返されたコルク板、きっちり並べられた写真だが、吊り下げられている紐が変にねじれているのがやはり気になる。 ドアから一回顔を出し、気配が無い事を確認するとゆっくりと手を伸ばし、クルリとひっくり返した。 「あ…。」 後ろから少女の小さな声が上がる。彼女が部屋に入ってきた事は、その声で分かったものの、俺の目はあのコルク板に釘付けだ。 『榎本が、好きなんだ。 句城』 俺の、良く見た事のある雑で汚い文字が、一枚の紙に愛の言葉を綴っていた。 「何してるのよ、真昼!!」 悲鳴にも似た彼女の声が俺の耳を突き抜けた。ガシャンッと透明のテーブルに持ってきたトレーをおいて、コルク板をひっくり返す。 「もう、やめてよ!恥ずかしいなぁ…」 顔を赤くして、照れる彼女。でも… 「〜俺の方が、恥ずかしいんだけど…。」 赤くなった顔を彼女に見られたくなくて、下を向いた俺の視界の端で、彼女が小さな微笑みを一つ零したのが、見えた。 彼女の日当たりの良いあの部屋に、一つのコルク板。 その裏には、俺等の始まりを告げた…あの紙飛行機。
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