■ トップページ  ■ 目次  ■ 一覧 

その言葉を待っていた 作者:綺依 憂倭

第22回   22
「…でも、水澄さん」
櫟がぽつりと言葉を零した
「そんなに、無理して言ったって、…こっちが困るよ」
「無理なんか!…してないよ…」
無理なんかしていない、と伝えたけれど
櫟の強い瞳に射抜かれて、思わず本音がこぼれそうになった。
「してないから、だから…」
だから。あたしをそんな優しく見ないで欲しい。
「っ、甘えたくなるから、止めて欲しい」
「――そういえばさ」
「?」
にこりと屈託のない笑みを浮かべてあたしを見る。
なんだかどぎまぎしてしまって、狼狽える。
「僕のお姉さんが言ってた事なんだけれど、‘甘える事も強さの一つ’なんだって。」
「甘える事も…?」
「きっと、…みんなが無理する事は弱さなんじゃないかって言いたいんじゃない?」
我慢する事を止めろと言ってる訳じゃなくてねと櫟が笑った。
「無理ばかりして、どこかで爆発してしまう事は、弱さだと言いたいのかもしれない」
ぐらぐらする。
精神が急激にバランスを乱し始める。
「そんな強情にならなくても良いんじゃない?そこまでして守るものなんて無い筈だよ」
「あたしには有るの」
軽く咳払いして、櫟が喉の奥からくっと言う笑い声を上げた
「有ったとしても、無理は良くない」
「っ!でも…」
でも?櫟が首を傾げる
あたしが口を噤んで黙秘する。
「…水澄さん、ここまで言ったんだから」
それでもあたしは沈黙を守る。
破る事はしない、…出来ない。
「言わないならそれでもいいけど、…無理のしすぎは駄目だよ」
ぽんぽん。
頭を優しく叩かれると、なんだか暖かい優しさに包まれたような気分になった。
気づけば頬からは涙が滝のように流れ出ていた。

← 前の回  次の回 → ■ 目次

Novel Editor by BS CGI Rental
Novel Collections