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月が愛した少女 作者:黒田 瑞乃

第3回   出会い*第2章*
不思議な声が聞こえてからしばらくたった・・・
あれ以来全くといっていいほど声が聞こえるような雰囲気ではなかった。
なぜなら、フールに呼ばれてから厨房に行ってみると、料理に使われる材料がそこらじゅうに散らばっていたのであった。
どうしてこの様になったのか、シエルにはすでに分かっていた。

フール自身は否定してはいたが、シエルにしてみればレックさんに性格がそっくりなのである。
本人には「はぁ?どこが似てるんだ?」などと言われてしまうが、私には何となくだけども雰囲気が似ていると思っている。こんな事をフールの前で言ったら、たぶん怒られてしまうだろうなぁ・・・。
なぜ汚いことがレックさんとつながっているかというと、レックさんも私たちと同じぐらいの年の時には、フールと同じようなことをやっていたというのを一度だけレックさんの奥さんに聞いたことがあるからである。

私がそんなことを考えていた合い間に、さっきよりも調理場がすごい事になっていた。
『やっぱりフールはこうなるんだよなぁ・・・レックさんも知ってて私と一緒の仕事をさせてるんだろうし・・・はぁ・・・』
こうなってしまうと彼は止まらない。
私は材料を切るのをやめて彼の側まで行った。あまり怒るのは好きではないが、こうなってしまうと、もうどう仕様もない。私は一息おいてから、
「フール!何で料理をするだけなのにこんなにも材料がいろんなところに飛び散ってるのよ!!!片付けながら料理することができないの!!!」
私が言うと周りの人たちは体をビクッとして、驚きの眼を向けた。とはいっても、私にそのような目線を向けたのは、今年初めてこの仕事に就いた人たちだけであって、それ以外の人たちは、『また今年も始まったなw』と笑顔でこのようすを見ている。
「毎年毎年同じこと言わせないでよ!」
そう、毎年なのだ。しかし、毎年言っても直らないのはきっとフール自身直そうと思わないからである。その証拠に、
「んなこと気にすんなって。どうせこれが終わったら次の食材使わなきゃいけねぇんだから、片付けたってまた汚くなるだけだろぉ。」
こんのやろぉ〜(怒)いつまでたっても口が減らない奴め
「一回一回片付けないと最後に片付けるときに、倍以上の時間がかかっちゃうでしょが!何でそのことがわからないのかなぁ・・・。」
「別にぃw俺にかかればお前の半分の時間で片付けられるから平気だもぉん♪」
「う・・・」
確かに彼の言ってることは正しい。私はなぜかほかの人と同じことをやっているつもりなのに、ほかの人よりも時間が掛かってしまう。なぜだかサッパリ分からないんだよなぁ・・・
「そ・・・そんなの関係ないじゃんか!もういい!勝手にやってれば!!!」
「オイオイ・・・図星だからってそんなに怒ることないじゃんか。」
「うぅ・・・もう知らない!」
そう言って私はフイッと後ろを向いて自分がやっていた仕事を再開した。

その後も、私は黙々と材料を切っていった。私はスープの担当だったので、材料を切ったり、ダシを摂ったりと忙しく厨房を移動していた。
そのおかげで順調に料理は完成した。料理に作るのに没頭していたせいか、後ろにいたフールに気づかなかった。
「相変わらずお前の料理はうまそうだよなぁ。ちょっと一口味見ぃw」
突然声をかけられて私は後ろを振り向いた。彼は私のすぐ後ろに立っていたので、振り向いた途端に私の頭と彼の顎がぶつかってしまった。
「つぅ〜・・・お前って石頭だよなぁ」
「うぅ・・・うるひゃい!ていうか勝手にスープ飲まないでよ。」
「いいじゃねぇか一口ぐらい。減るもんじゃないし。」
「いや、スープだから減るって。」
思わず突っ込んでしまった。そんなことも気にしないで彼は
「うわ!やっぱうまいなぁお前の料理。俺なんかよりもうまいぜ。」
「え?あ、うん。ありがとう。」
私は思いっきり素直に感想を言ってきたフールに驚いて、つい丁寧な言葉を使ってしまった。それに気づいた彼は、ニヤッと笑って
「でも残念だよなぁ。」
「ん?何が?」
「いやまぁ、こんなにうまい料理作る奴がこんなに鈍感だと思うとなんだかぁ・・・」
「む・・・何か文句でもあるの?・・・」
「別に。でも、うまいことには変わりないから大丈夫だよ♪」
「なんだかうまくかわすされた気分がするのは、私の気のせい?・・・」
「気のせい気のせいw。さてと、俺はまだレックの手伝いがあるからメインを作ってるほうに行くけど、お前もさっさとデザートの用意しちゃえよ。今回のは時間が掛かるんだろ?」
「うん。結構細かい作業が多いかな。」
「お前って手先が器用だからなぁ。まぁがんばれ!」
「うん!お互いがんばろw」
そう言って私たちは笑いながらそれぞれの持ち場に向かった。

「ねぇ。デザート用のイチゴってまだ外にあるの?」
私は自分の持ち場に行ったところでそのことに気づき、一緒にデザート作りをする人に聞いてみた。
「はい。調理する直前に中に入れようと思いまして・・・始めるんですか?」
「うん。そろそろ始めないと間に合わないんだよねぇ。私が作るデザートって。」
「なら、いまもって来ます。」
「ん、いいよ。私が取ってくるからその間にほかの材料と道具とこの部屋の温度を下げておいてね。」
そう言って私は外へと出て行った。イチゴがある場所まで行くのには10分はかかる。
私はのんびりと空を見上げながら歩いていった。

そのころ王宮では、グロウが一人騒いでいた。
「ウォルさまぁ〜!!!どこにいらっしゃるんですかぁ〜〜(泣)」
グロウはウォルを探して王宮中探し回っていたのである。
なぜ探し回っているかというと、その原因は数時間前にさかのぼる・・・

「おいグロウ。しばらく俺を一人にしてくれないか。」
「はい?」
グロウは突然そのような言葉を聴いて、びっくりしたせいか間抜けな声を出してしまった。それもそのはずである。ウォルを一人にするとかならずな何か問題を起こすからである。
「おいグロウ、聴いているのか。」
その言葉でグロウは自分の世界から帰ってきた。
「あ、はい。しかし、なぜ突然そのようなことを?」
「何か文句であるのか?」
「い・いえ!」
「なら問題はないだろう。」
「・・・わかりました。お食事の2時間前にはお迎えにあがりますので、それまでには済ませておいてください。」
「あぁ、わかったよ。」
「でわ、私はこれで失礼いたします。」
グロウはそう言って部屋を出ようとしてドアノブを掴み、ウォルの方へ向いて軽くお辞儀をしようとした後に
「ウォル様、この城から抜け出すことは決して許しませんからね。」
ウォルはその言葉を聴いて、満面の笑顔で
「あぁわかっている。」
「ならいいんですが・・・それではこれで。」
グロウは心配しながらも、これ以上は言っても無駄だろうと思い、その場を離れていった。その姿を見ていたウォルは不敵な笑みを浮かべて
「ククク・・・俺がそんなこと守るかっての。グロウはなんでも笑顔で答えていれば信じるからなぁ♪まぁ、そういうところがあいつのいいところ何だけどな。」
そう言って彼は着替えたばっかりの服をいきなり脱ぎ始めた。
そしてクローゼットの一番下の棚の奥に入っている服を取り出した。
その服は今まで来ていた服とは違い、質素で民が着る服だった。
「うん。やっぱりこの服に限るよなぁ。さてと、そろそろ行くかな。」
そう言って彼は、自分の部屋の窓から外へと出て行った。

そのようなことがあったとは知らずにグロウはまだ王宮内を探し回っていた。
「あのお方はいったい何処へ行ったんだ・・・は!まさか外へ行かれたのでは・・・。あの人のことだからきっと服も着替えて行ったんだろう。もしや!あのお方を探しにいかれたのでは?!いや、そのようなこと・・・だがあの人は自分の気が済むまでは死んでも探す人だ。そうと分かれば外を探してみよう。中はほかのものに任せておけば大丈夫だろ。」
一人でそのようなことをブツクサ言っていたので、通り過ぎていく者たちはみな顔をしかめて通り過ぎていった。
「よし!そうと決まれば早速行動に移すまでだ。ウォル様、見つけたらただじゃおきませんからね・・・(怒)」
そう言って彼は、外へと足早に歩いていった。

「う〜ん。やっぱり今日はいい日だなぁ。」
そのころ私は、のんびりとイチゴがある場所へと歩いていた。
「そろそろ栽培所が見えるはずだけど・・・あ、あったあったw」
そう言って小走りでその場所へ近づいていった。
ポケットからレックさんにもらった鍵を取り出して鍵を開けた。
「うっわ〜!一面イチゴ畑だぁ♪早速イチゴ狩りでもしますかぁw。今回はあんまり甘くないのを使うから気おつけないと。」
自分に言い聞かせるように言って、すぐにもぎ取る作業を始めた。

しばらくして、籠いっぱいのイチゴを取り終えた私はそろそろ帰ろうかと思っていた。すると、急に誰かに見られている感じがした。恐る恐る視線を向けている人へと振り返ってみた。
「あ・・・。」
すると、そこには私が今までに見たことがない人が立っていた。
美しい銀髪で両目が碧色の目をしている少年(いや、青年かな?)がいた。
「あ、あの・・・何か御用ですか?」
私は何とかその言葉を振り絞ってみた。しかし彼は何も言わずにじっと睨みつけるような目線で私を見ていた。すると、突然しゃべりかけてきた。
「いや。それよりもお前、ペンダントを持っているか。」
「はぁ?」
いきなり変な質問をされて私は呆気にとられた。何を言ってるんだこの人はと。
何も言わないで黙っているとその人が、
「持っているのか持ってないのかどっちなんだ?」
と、少し怒り気味な声で言ってきた。
何だこの人は???もしかして自己中なのかなぁ???
「あ、うん。持っているといえば持っていますけど・・・それが何か?」
「・・・・。」
私が聞いた途端、彼は黙ってしまった。
確かに私はペンダントを持っていた。小さいころから私の家に古くから伝わるものだった。いまは家族がみんないないので、私が受けついでいたのである。
しかし、なぜこの人は、初対面の私にこんなことを聞くんだろう?
よし!思い切って聞いてみよう。
「あの、なぜこのようなことを聞くんですか?」
「・・・・。」
彼は何かを考えているかのように、顎に手をついて考え込んでしまった。
また無視ですかい!なんかこの人と話してると時間がかかりそう。ここは早く調理場に戻ったほうがいいかもね・・・
「あのぉ・・・」
「なんだ?」
「私もう戻らないといけないので、これで失礼しますね。」
そういって、私は彼の横を通り過ぎようとした。しかし、そうはいかなかった。
彼が私の腕をつかみ、私を彼の顔の方へと振り向かせた。
「お前その格好からして王宮の料理人だろ。」
「え・・・あ、うん。」
「お前なんの担当だ?」
なに言ってんだろこの人は、と思っていることはあえて言わないでおこう。
「スープとデザートだけど、それが何か?」
「なら、デザートはお前が運びに来い。いいか、絶対に来いよ。」
「はい?私が運ぶの???」
「そうだ。絶対に運びに来い。」
「・・・うん。」
なんだか、迫力に押されてしまって、ついうなずいちゃった。
「用はそれだけだ。」
そういって、彼は帰っていってしまった。
「誰なんだろあの人・・・・・・ああぁ!!!もうこんな時間!急いで戻らないと!」
私は栽培所の鍵を閉めたことを確認して、籠の中身のイチゴを落とさないように気お付けながら走った。

もちろんウォルはお城に帰った後、グロウにしつこいほど説教をされたのは言うまでもない。

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Novel Editor by BS CGI Rental
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