別れの日が来た。
見上げた空はぶ厚い雲に覆われそこから雨が降っていた。
見送りにこの町に住んでいた友人と家族が来ていた。
見知ったこの人たちと会うのも今日が最後になるかもしれない。
「元気でな」
「体に気をつけろよ!」
決まり文句となったかのように皆そのような言葉を俺に贈ってきていた。
これから戦場に向かうものに言う言葉が見つからないのだろう。
しばらくして迎えの軍用車が来る。
軍用車といっても軽トラックの荷台にテントを張ったような形をしている粗悪なものだった。
その中に今回徴兵された俺を含めた10名ほどの人が乗り込む。
軍人が全員いることを確認すると軍人は運転席に乗り込みエンジンをかける。
単調なエンジンの振動が俺にも伝わってきた。
しかし俺は気にかかることがあった。
茜は見送りにはこなかった。
こんな別れはいやだ。
そう思いつつも声に出せない俺は弱い人間だろうか。
そして車は俺たちを戦地へと運ぶが為動き出す。
それと同時に先ほどまで小降りだった雨が土砂降りになって大地に降り注いだ。
まるで・・・俺の心を写すかのように。
不意に車の後方を見てみる。
誰かが走っている。
「遼!」
聞こえた。確かに茜の声だ。
「茜!」
思わず身を乗り出し彼女に応える。
「遼!私待ってるから!あなたが帰ってくるのをずっと待ってるから!
だから!生きて帰ってきて!約束だよ!」
彼女は精一杯の声を張り上げて遠ざかる俺に向かって約束を叫んだ。
応えなければならない。
「わかった!必ず生きてこの町に帰ってくる!約束だ!」
いつもの俺だったら柄にもないと笑われるほどの大声にのせて彼女に約束を届けた。
聞こえたかは分からないが俺の目には確かに頷き手を振る茜の姿が其処にはあった。
これから俺は恐ろしいほどの困難に見舞われるかもしれない。
だけど。決めた。
いや、彼女のおかげで決めることができた。
どんな困難な出来事も乗り越え、いつの日かこの町に戻ってくることを。
それだけは違う事のできぬ約束として、この胸に刻んでおこう、と。
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