言わないほうがいいと思っていた。
けどそれはただの『逃げ』だった。
いずれ分かる別れなら、自分の口から伝えよう。
そう。決めた。
「・・・話って?」
茜も雰囲気を察したのか不安そうに聞いてくる。
「・・・徴兵状。昨日俺のところに届いたんだ。」
それを聞いた茜は驚いているというよりショックを隠せない表情だ。
無理も無いだろう。
恋人が戦場へ行くと聞いて驚かないはずが無い。
しかもこんな急にそれが訪れてしまった。
「・・・いつ出立なの?」
「明後日。月曜日だ。」
「・・・」
沈黙が続く。
茜は微かにだが確かに嗚咽を漏らしていた。
「茜。・・・ごめん。」
「・・・遼が悪いわけじゃないよ。」
別れがこんなにも辛い物だとは思いもしなかった。
行きたくない。彼女と離れたくない。
しかし現実は無常だ。
「・・・かないで・・・。」
アカネが呟く様に言ったが聞き取れなかった。
「・・・茜?」
「・・・行かないでよ・・・。」
彼女も同じことを想っていたようだ。
「・・・ごめん。」
謝る事しかできない。
うまく口が回らない。
目頭が熱い。
「・・・せっかく恋人同士になれたのにね。 どうしてこうなっちゃったんだろう・・・。
もっと遼と一緒に居たかったのに。遼と話していたかったのに。」
彼女の本心だろう。本能的にそう思った。
しばらくの沈黙のあと茜は口を開く。
「私・・・帰るね。」
「・・・送ってくよ。」
「いい。・・・一人にして。」
いつもの様な温かみを持った言葉ではなく冷め切ったその言葉は酷く俺の心を揺さぶった。
彼女が立ち去った後も俺はただそこに立ち呆けていた。
俺はそこで世界中で一人になってしまったかのような孤独感に襲われた。
晴天だった空は俺の心を写すかのように淀んだ雲に覆われていた。
別れの当日まで茜からは音信不通だった。
そしてついに別れの日が来てしまった。
別れのその日は冷たい雨が降りしきる日だった。
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