この戦争が始まってもう半年になるだろうか。
半年前まで確立されていた個の日本という国の平和は、
いともたやすく崩れ去ってしまった。
しかし戦争という現実を実感するのにも時間を要した。
テレビやラジオのニュースなどで開戦や戦況が伝えられてもまだ信じられずにいた。
俺たちが住むこの町から徴兵によって人が減っていくのを見るまでは。
思い知らされた。
どれだけ自分たちが甘い現実に浸かっていたのかを。
そしてまだこの時は俺たちがこんな運命を歩んでいくとは知りもしなかった。
「この町も人少なくなったね。」
学校から帰る帰り道、俺と茜は話しながら家に向かっていた。
東京などの主要都市ではほとんどの学校は休校になっているらしいが、
俺たちが住んでいる諏訪地方ではまだ学校はやっていた。
「そうだな。ただでさえこの町は人が少ないのにな。」
この町の人口は徴兵によって以前の三分の二ほどに減ってしまっていた。
「どうなるんだろうね・・・日本。」
茜が不安そうな顔で俯く。
「さぁな、成る様にしか成らないだろ。
だからいちいち深く考えなくてもいいんじゃないか?」
こういうときに自分の口下手さが恨めしい。
もっと上手く不安を取り払ってやれたら、と思う。
「・・・そうだね。」
まだ陰りのある顔だが茜は微笑んでいた。
「じゃあ明日休みだし何処かに行こうか?」
「特に予定もないしいいぞ。」
茜が誘ってくるのを、断る理由も無いので受ける。
「わかった!じゃあ明日10時に駅前でいい?」
「ああ。大丈夫だ。」
「うん!じゃあまた明日ね!」
茜を家まで送り軽く手を振りながら、彼女と別れた。
「ただいま。」
「お帰り遼。何か手紙が来てたわよ。」
「俺に?」
母親から茶封筒を渡される。
それを持って自分の部屋に戻ると封筒を開けた。
遂に来てしまった。
それは3日後に俺が徴兵されるという、徴兵状だった。
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