30話 地軍隊イザナギ
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塹壕内はドロイドとの戦いで荒れ模様となっている。敵軍は数が多く、こちらは不利だ。 ドロイドの猛攻により、連合軍の隊員や兵士はレーザーで射抜かれ、ビームソードで腕や胴体を切断された。どちらの傷もおびただしい血痕で塹壕内は郵便ポストのように紅く染まる。 サフィアは疲労によりうつ伏せで倒れ、微動だにしない。周りでは戦闘が行われているため、戦死者のまねをしているらしい。 ドロイド向かってガトリング砲を連射しているココ=アルの持つ残弾も少なくなっている。彼だけではない。連合軍全ての人がそうだ。その隣にいるメディアは戦闘の合間にチラッと空を見上げた。そこには点が無数にある。それは中型S☆P宙陸輸送機である。 他の仲間たちも気付きはじめている。ついに来た、援軍だ。ジェットを逆噴射して着陸の態勢をとっている。 しかし、その援軍の上に更に心強い援軍がいるとは思いもしなかった。 スティックストライクが敵の援軍に気付き、銃を構えると贈り物が降ってきた。 ‘とても痛い’贈り物が。 その贈り物は砂漠に着地すると爆発した。それも一つではなくたくさんだ。心強い援軍とは、今空爆を行なっているスターランス大隊の宇宙空中両用爆撃機『スターランス・スカイスターファイター』である。 彼らの絨毯爆撃により敵軍後方部隊は大打撃を受けた。 宙陸輸送機からスターランス中隊と防衛軍がざわざわと塹壕内に入る。彼らは銃や手榴弾などを使って手際良くドロイドやカンパンマンを倒す。 サフィア周辺はすでに援軍が占領し、彼の前に二人の男が立ち止まった。 「サフィア殿、御無事でありますか?」 その中の一人が言った。 「お前らは誰だ?」 サフィアがうつ伏せのまま言った。 「スターランス中隊司令官クリストファー・ネービス」 「スターランス中隊副長官ビンセント・グレナディーン」 二人はリズムよく答えた。 「スターランスだって!」 サフィアがガバリと起き上がった。スターランス中隊はライトスターでお世話になったが彼らの司令官と副長官にはまだ会っていない。 「いかにも」 グレナディーン副長官がうなずく。 サフィアはあの時司令部にはいなかったのでスターランスが来るなんて思いもしていなかった。 「防衛長がいらっしゃいましたよ。隊長」 ネービス司令官が言う。 「エーレさん!?」 サフィアが辺りを見渡す。エーレは目の前にいた。 「生きてたんですか!?」 エーレはソーラーの戦いで宇宙戦艦と運命を共にした…ずっとそう思っていた。今も彼の赤く光るゴーグルを見ても信じられなかった。 「ク…いきなりそれはねえぜ。サヒア」 いつも通りマグカップ片手にエーレは言う。 「あの中からどうやって?」 サフィアはもう嬉しくてたまらなかった。 「ク…戦艦の司令塔は救命ポッドにもなるんだぜ。戦艦にいた隊員をできる限り集めてスターランス隊の戦艦に居候させてもらったのさ。その後戦闘機を戦艦の中に入れて一度ライトスターに戻った。地上に降りるための船を持ってくるためにな。で……少し時間が掛かっちまって、その間にSPSから地球へ出動命令が下されたのさ。内容は…地球を護れ、だな。どうやらあのオヤジ、S☆P条約を改正して他国の援軍を自由にしたらしいぜ」 エーレは途切れ途切れコーヒーを飲んでいたので話は思った以上に長くなった。 そうしているうちに敵軍は崩壊した。スターランス中隊の実力、防衛軍の数、SPEのチームワーク、中立軍の軍事力で得た勝利である。 連合軍は大きな歓声を上げている。 「おお、エーレ殿、それにサフィア殿ではないか!」 SPL隊長でスターランス連隊総司令官ラック・コールだ。後ろには司令部の人たちがいる。どうやらコールは司令官たちを保護したらしい。 「また助けられましたね」 サフィアが顔を赤らめて言う。 「ライトスターでのことであるな?助けられたのはこちらの方である、SPE隊長。フィーを捕らえることができたのだからな。それよりマスト司令官から、地軍隊とか言う軍隊の基地まで行くと聞いた。嬉しい事に我々には画期的な移動手段を持っている。サンド・スピーダーと言う砂漠を滑るように走るホバークラフトだが百はある。それに、大隊の戦闘機による援護もできる。食料や水、弾薬も沢山ある。どうだ?我々も戦う価値はあると思われるが」 コールはサフィアに言った。 サフィアはソフィヤやマストを見て、 「もちろんです。またまた助けられますがよろしくお願いします!では、一緒に戦いましょう!」 強くうなずきながら言う。 コールは彼の決意に顔をほころばせ、ゆっくりとうなずいた。 「どうやら、今まで起きていたアラビアの事件の原因はこのドロイド…とか言う奴だったのだな」 マストはサフィアに言った。 「いや、ドロイドを操る…DDDの仕業です。そして私たちはドロイドを操る指令塔を倒さなければなりません。そうしなければこの事件、解決には至りません」 サフィアはまだピリピリしている。 「なるほど。しかし、我々には心強い仲間ができた。どうやらこの事件、解決の道が開けたようだな」 サフィアやマスト達は、果てしなく続く砂漠の中で、オアシスを見つけた思いだった。
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地軍隊への道はサンド・スピーダーを使っても長く険しいものである。太陽の光線で熱くなった砂埃で顔が火傷しそうになった。ドロイド連隊に何度も遭遇したがサンド・スピーダーからの攻撃と戦闘機からの攻撃でなんとか突破した。そんな苦境を乗り越え出発から6日が経った。 9月29日リャド 前方に巨大な要塞が姿を現しつつある。 「地軍隊本拠地…懐かしいな」 サフィアが懐かしげに呟く。それもそのはず、サフィアは昔ここに行ったことがあって当時の元帥パララを逮捕したのだ。 ラックは手を挙げてサンド・スピーダー連隊を止めた。ちなみに、援護の戦闘機はすでに10km後方で宇宙にある戦艦にへ帰還している。 「ここからは歩き、地軍隊基地を包囲する。基地の入口一点に集中攻撃をし、入口に穴を開け、そこから我々スターランス小隊が潜入する。そして、相手の司令塔と倒し、ドロイドの活動を停止させる。成功すれば一件は落着すると思われる。皆の衆、意見は?」 「ありません」 ラックはさすが歴戦の覇者だ。戦術もしっかりしている。 「我々の小隊を除き残りの者は攻城戦をやってほしい。そして、敵の攻撃が疎らになれば基地へ潜入。皆、頼むぞ」 司令官はうなずいた。エーレはコーヒーを飲みながらコール隊長に感心している。 「ちょっといいですか?」 「これはこれはソフィヤ司令官。どうなされた」 他の司令官はサンド・スピーダーから降り、部下に指示をしている中、コールとソフィヤのみスピーダーの上にいる。 「私もスターランス小隊とこの基地に入りたいのですが」 「無理だ」 「なぜ?」ソフィヤがとっさに言う「私は指令塔を倒すためにここに来たの。…サフィア、ちょっと来て」 ソフィヤはサフィアを呼んだ。サフィアは部下に一言いい、こちらにやってくる。 「サフィアも指令塔を倒すためにここまで来たんです。もし司令塔が地軍隊の将軍か何かだったら、あなたたちじゃ勝てっこない。地軍隊は武術が優れてないと将軍になれないの」 サフィアがスピーダーに乗り込んだとき、ソフィヤは必死に弁論していた。 「…銃では無理なのか」 「そう言う人もいるかもしれません。レーザーを剣ではねかえす人はいます。私やサフィアだってそうだし、ネオンにだってできる。だから地軍隊の人にでもできると思います」 ラックはしばらく黙ってこう言う。 「わかった。お主がそれほど言うのなら我からナプラ・コッテに言っておく。小隊と合流するがいい」 ナプラ・コッテはスターランス小隊の司令官である。 「あ、ありがとうございます!」 ソフィヤの声はとても明るかった。そして、サフィアの手をとって(ごく自然な動きだ。)スターランス小隊の方へと向かうのであった。
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そのころ、地軍隊基地内部。最上階元帥の部屋。今ここはパララの名残はなく、この部屋の窓から外を眺めている人こそ、現元帥ジェデン・リードである。 「ふ…来たな」 ジェデンは下を見下ろし鼻で笑った。 その時、元帥の間に一人の男がやって来た。 「ジェデン閣下、見ての通り敵が我々の基地を包囲しております」 「おお将軍、ちょうど良い。そろそろ私が計画した最高のパーティーが始まるのだが、最後の最後に邪魔が…いや、パーティーを更に盛り上げる‘ケーキ’がやって来たようだ。そして、それを食べるのが将軍、お前にしよう」 ジェデンは窓の方を向きながら将軍と呼ばれる人物に言った。 「つまり…戦うのでござるな」 「そうだ。この基地の2階で待ち伏せ、そこに‘ケーキ’がやってきたら食べるのだ。その間にパーティーは始まり、鳥人王国の島が一個堕ちる。そうしたらパーティーは終わり、君も食べ終わる。最高ではないか」 ジェデンの口がゆがんだ。 「…行ってまいるぞ、閣下」 将軍は一礼した。 「必ず守るのだ。この地軍隊をな」 ジェデンがそう言った。将軍はきびすを返して元帥の部屋から出ていく。 そして、将軍は何かの違和感を感じていた。
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その攻城戦の準備が整った。地軍隊の本拠地を連合軍が包囲が完了したのだ。 エーレの合図で連合軍のレーザー砲が入口目掛けて集中砲火を浴びさせる。 しかし、地軍隊もあの時のように指揮官がアホではない。基地は事前に張られたサイコシールドによってレーザーはシールドに吸収されていく。 「ク…あの時と同じか…」 エーレの言うあの時とはソーラーの戦いのことである。 地軍隊の見張りは連合軍に気付き、警報が鳴り響き、基地の砲塔が連合軍に向けられ、レーザー砲が火を吹く。 「ミサイル、用意。砲塔に向かって構え」 戦場と化した中でエーレが通信機向かって呟くと連合軍の小型ロケット砲が準備された。 基地の砲塔から放たれたレーザーが砂漠の地面にぶつかり、その一体がマグマのように噴出する。何人もの兵士がまきぞいになる。 「発射せよ」 エーレが小声で通信機に命じるとロケットが一斉に放たれ、そのほとんどが砲塔に命中する。砲塔はレーザーのエレルギーが漏れ、見るも無残な状態だ。 “司令官各位、入口サイコ・シールドホール確認。パワー・シールド見当たらず。スターランス小隊潜入可能” 司令部に結果報告が流れてきた。 「……見る限り入口に地軍隊兵士はいない」 ラックは双眼鏡を使って基地の入口を確認し、通信機を引っ張り出す。 「スターランス小隊報告、第1班、第2班、第4班、地軍隊基地突入」 ラックの命令は地軍隊基地100m前で待機しているスターランス小隊に届きその連絡はサフィアの耳にも入った。
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“スターランス小隊報告、第1班、第2班、第4班、地軍隊基地突入” スターランス小隊とサフィアとソフィヤ、全員の耳についているイヤホンにコールの声が流れた。 小隊は無言のまま立ち上がり、3班に分かれて地軍隊の入口までの100mを全力で走り出す。 「私たちはスターランス小隊第1班。司令官の私ナプラとあなたたちを守る、小隊の中で一番機動性があり、守りが堅いの。二人とも、私の後ろにピッタリとくっ付いてきな」 女司令官ナプラはそれだけを言うと首に巻いているスカーフを鼻が隠れるまであげ、タイミングを計るために前を向く。まるで女忍のようだ。そして、サフィアとソフィヤは言われたとおり司令官の後ろについた。 3人の周りには囲むように4人の兵士がついている。皆スカーフを鼻まであげている。 「おっと、二人とも、この催涙防止ゴーグルとスカーフを付けて」 ナプラは前を向いたままゴーグルとスカーフをを二つずつ、二人に差し出す。 ナプラの手の感覚からゴーグルとスカーフが消えるとナプラは駆け出した。 二人は慌ててナプラの後をついていく。しかも小隊第1班の全体のスピードが想像以上に速いので2人はついてくるのが精一杯だ。しかも二人と司令官を囲む4人はレーザー銃で応戦しているのに…だ。 地軍隊本拠地の入口付近につくとナプラは先に潜入した将兵と連絡を取る。 「こちら司令官、アンティ・グーア要請」 “応答副長官アンティ。用件申請” 本拠地内にいるアンティと呼ばれる副長官と連絡を取っているらしい。 「内部確認」 “地軍隊兵…人間と戦闘中。扉をあけた瞬間、集中的にレーザーを浴びる。体勢低くし入れ” 副長官は短く言った。 「室内空間確認」 “15、3、3。壁に連なる柱あり” 15は奥行き、3は横幅、最後の3は高さである。 「マスタード爆弾確認」 「マスタード…一人一個あり」 マスタード爆弾とはカラシ粉が圧縮されている手榴弾で、一度喰らうと目はつぶれるように痛み、息ができないほど咳き込むというものである。ゴーグルとスカーフはこれらを防ぐためにつけるのだ。 「マスタード爆弾均等爆破許可。実行したら連絡。入り次第私達も参戦する」 しばらく通信が途切れ、アンティの声がまた聞こえる。 “完了” それを聞くとナプラはみんなに言う。 「みんな、ゴーグルとスカーフをちゃんと付けたか?…体制は低く、すぐに端に行きな」 第1班は勢いよく扉を開け、言われたとおり体制を低くして地軍隊ロビーの端へと転がるように移動する。 地軍隊のロビーはまるで神殿に連なる柱のようなものが壁に沿って均等に並んでいる。そして、その柱を影に地軍隊の兵が、そしてスターランス小隊もそこに隠れて銃撃戦が繰り広げられていた。しかし今、攻撃しているのは小隊のみで、地軍隊はむせている。 「一見何もないようだがこの部屋はマスタードが飛散している。ゴーグルとスカーフはしっかりつけておけ。でないと敵のようになる」 第1班の兵士達も銃を取り出して敵兵を一人一人撃つ。もちろん、ナプラ司令官も戦っている。 「第4、フック許可」 通信機向かって命じると第4班は左手首に装備しているフックショット…スーのペタリガンの手甲鉤ようなものがついているものを一番奥の壁向かって発射する。 フックショットはシュルシュルと伸び、フックが壁に突き刺さるとそのフックは発射主を引っ張り上げ、高速でその壁まで移動した。 フックを引き抜き、第4班は着地した。それと同時に地軍隊はスターランス小隊に挟まれた。 地軍隊兵がどんなに隠れようと、後方のスターランス、又は前方のスターランスには格好の的となり、地軍隊兵は恐怖で震え上がった。 そして、それほど時間がかからずにこの部屋にいる地軍隊兵は全滅した。 「俺たちは何もできなかったな」 サフィアは呟いた。 「行く手の敵を全滅させ、君たちを守るのが我々の任務だ」 弾倉を入れ替えながらグーア副長官が言った。 「皆、階段確認。道はここのみ」 一番奥にいる4班の誰かが言った。 「よし、行くよ」 ナプラは2つの班を率いて向かう。4班も混じり、階段をあがるとそこにはドアがある。 この一つだけのドアがとても重く感じた。 「よし…行くぞ」 ナプラが呟くように命じた。 小隊の一人がドアを押し開け、すぐに体制を低くした。しかし、レーザーも何も降ってはこなかった。 恐る恐る覗いてみるとそこには正座をしている一人の男がいるだけだ。 その男は目をつむり、瞑想をしているようだ。腰には2本の刀を差している。 スターランス小隊は恐る恐る部屋に入る。そして、床がいつもと違うことに気付く。とても香りがいい。落ち着く気分になる。 「…た、畳」 サフィアがそう言うと男は何かを何かを呟きはじめた。 「神聖なる畳の間に土足ではいるとは無礼な…今すぐにでも裸足になれ」 男は微動だにしない。しかし、その口調はウムといわせぬ、強圧的だ。小隊は言われたとおり靴と靴下を脱ぎ、裸足になった。畳の感触が気持ちいい。 それでも男は動かない。 「お前は地軍隊か」 ナプラが男に言った。 「左様」 男はこれだけ言うとまた口を閉ざす。 しかし、ナプラはそれだけを聞きたかった。ナプラは音もなくレーザー銃を取り出すと男向かってレーザーを発射した。が、男は二本の刀のうちの一本を抜くとレーザーを跳ね返す。そして、何事も無かったようにその刀を腰に差す。 「武者の道は心の道。例え目を開かずとも心の目がお主を見つめる。心の目は光の如し。心の目は光線よりも速し。拙者に熱光線など通じぬ。拙者と対等に戦うには剣を交えよ。さあ、名乗り申せ」 男はそう言うとまた瞑想を始める。 「どうやら…最上階に行く前に君たちにお世話になるのだな」 グーア副長官が呟く。 「よし、じゃあ俺が」サフィアが一歩前にでるとソフィヤは2歩前に出た。 「サフィア、ここは私に任せて」 「お、おい…お前には無理だ。敵は見たところ強い。それにお前がやられたら」 やられたら鳥人王国はどうなる?そうサフィアが言いかけたがソフィヤはじっとサフィアの瞳を見る。 「サフィア、私の目を見て」 ソフィヤの目はとても透き通っていてきれいだ。そして、その目の奥には強い決意がある。 「ああ、わかった…」 サフィアはソフィヤの目を見て言った。 ソフィヤはニコッと笑い、そして真剣な眼差しで男を見て正座する。 ソフィヤは一度深呼吸をしてから一気に叫ぶ。 「我の名はSPE司令官ソフィヤ・ブルースカイ。そなたに戦いを申し込む!」 男はその声を聞くと始めて目を開けた。 「女ながら雄雄しい戦士であるな。ブルースカイ司令官。…拙者、地軍隊将軍、司令塔イザナギ・ブソンいざ参る!」 イザナギとソフィヤはほぼ同時に刀を抜く。ソフィヤは秘刀、ハリケーン。二刀が光輝く。一方のイザナギの刀は両端に刀のある、まるでネオンのUソードのような刀だ。それが二本ある。つまり、刃が4枚。 「…二刀流であるか。ならば拙者も二枚刀一本で勝負いたす」 と、イザナギは一刀を鞘に入れて腰にまた付け直した。 「武者は卑怯なマネはせぬ。例え相手が強かろうと弱かろうと平等の条件の中で戦うのでござる。我がフタフリは千年の名刀。簡単には終わらせぬ」 しばらく睨み合いが続く。これ以上ない緊張がこの部屋を包む。 サフィアが瞬きをした。目を開けたときにはすでに戦いが始まっていた。 まずソフィヤが左の刀で面打ちを仕掛けた。しかし、イザナギの右側の刃で止めるともう一方の刃で足払いをかける。それはソフィヤが跳ねてかわし、続けて右に持つサーベルでイザナギの頭をかすめ、左の刀で突きをするがすらりと避けられる。 そんな攻防がかなりの時間続いた。金属がぶつかり合う音と激しい息遣いだけがこの部屋に響く。 そんな時、ソフィヤの両刀がフタフリの鋭い一撃でとばされた。武器を失ったソフィヤだが、イザナギの首払いをしゃがみ、そのまま転がり立つ瞬間にハリケーンを手に取る。一連の動きに隙は全くない。 ソフィヤの挟み斬りはフタフリの2本の刃で防がれた。そのままの状態で十秒ほど経過した。不意にイザナギが押し、ソフィヤは尻餅をついた。気付いた頃にはもう遅く、ソフィヤの首にフタフリが猛スピードで迫る。しかし、首の皮が0.数ミリ切り込みを入れると右太股に渾身の突きを喰らわせた。 ソフィヤはの太股に激痛が襲う。力が入らずハリケーンを落としてしまった。 「降参…でござるか?」 イザナギが冷ややかに言った。 ソフィヤは涙を浮かべながらしゃくりあげている。太股にはまだ刀が刺さっている。 「声も出せぬか。降参なら首を縦に、戦うのなら首を横に振るのだ」 ソフィヤが首を横に振ろうとする。するとイザナギが言った。 「戦うのなら、首切りも考える」 ソフィヤは震えながら恐る恐る首を縦に振った。 それを見たイザナギは太股に刺してあった刀を抜くと同時にソフィヤの太股から大量の血が噴きだす。戦いを見ていたスターランス小隊、そしてサフィアは思わず目をつぶった。 「立てぬのか?」 刀に付着した血を布で拭いながらイザナギは問いかけるとソフィヤは震えながらうなずいた。 「そうか。ならば包帯を巻いてやる。怖がるでない。敗者でも平等だ」 イザナギが包帯を巻こうとソフィヤのスカートをめくるとソフィヤは短い悲鳴をあげた。 「お主の物など興味はない。今から巻くぞ」 イザナギは包帯をくるくるとソフィヤの太股に巻く。何度もやっているのだろう、手際が良い。ソフィヤは安心したのか気を失った。 包帯が巻き終わるのと同時にこの基地が揺れた。まるで地震のように凄まじかった。 「な、何が起こったんだ?」 サフィアが戸惑いながら言った。 「…万事地軍隊の思惑どおり。鳥人王国のコクガン島は破壊され、水没ならぬ陸没された。見よ、コクガン島の成れの果てがそこの窓から見えようぞ」 イザナギが指差した方向…確かにさっきまでなかった巨大な山のようなものが燃えている。 「い…一体何をしたんだ!」 サフィアが怒鳴った。 「我々地軍隊の砲塔が鳥人王国のコクガン島に集中砲火、数分の砲撃で燃え上がり、撃沈したとの情報。これぞ我々の計画。我が軍隊は拙者の戦いはなきと思い停止せり。拙者の任務は完了したりて、お主らも同様完了なり。であろう?兵力のない我々と更に戦うのは武者の道に反するであろう」 イザナギは何を言っているのかわからないが、どうやら地軍隊は降伏したので連合軍も戦うのをやめろ。と言うことらしい。 「ソフィヤ…」 サフィアが辛抱しきれなくてソフィヤの元へ駆けつける。それを見るなりイザナギがつぶやく。 「勇者ブルースカイの怪我、軽々しき。拙者、殺すことなかれ。手当てするよう心掛けるべし…。ブルースカイ殿、良き戦いであった」 イザナギはそう語るとまた瞑想に入るのであった。 サフィアはイザナギにゆっくり一礼した。自然と体が動いたのである。 そして、サフィアはソフィヤを背負い、小隊のみんなに言う。 「勝てなかった…ごめん」 「いいえ、私達総出でも勝てなかったでしょう。彼女はよく戦ってくれましたよ。さあ、帰りましょう」 ナプラはソフィヤの肩を優しく叩いてから階段を降りる。 後についてゆく中でサフィアは思った。 …イザナギブソン、今までの敵と何か違う。あいつはDDDに蝕まれていない。 サフィアとソフィヤ、そしてスターランス小隊は地軍隊本拠地をあとにした。
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基地の外はドロイドの残骸で埋め尽くされている。 「サフィア殿、本当に申し訳ない」 ラックが頭を下げる。 「我々が見落として大切な国土の一部を犠牲に…」 「いやいや、コクガン島が陸没して直接の犠牲者は0でしょ?それだけで安心です」 サフィアはなお謝り続けるラックをなだめた。 「この事件は我々が関係あると思ったのだが、目的は鳥人王国だとはな…」 マストが呟いた。 「ええ、地軍隊はこれを極秘でやろうとして、侵入者を排除していたなんて…」 「でも侵入者はカンパンマンとなり今は我に返っている。司令塔も消えたことだし、こちらは一件落着なのだろう。」 「ク…一件厄介なのができたがな」 エーレはマグカップをコクガン島の残骸に指しながら言った。 「まあそうですけど」 「それはそうと帰りはどうします?我々はまた砂漠を歩かにゃいかんのだが」 マストがみんなに言う。 「中立軍基地に広い空き地はありますかな?あるのなら我々はサンド・スピーダーで送る事ができる。我々スターランスは宙陸輸送船で宇宙へ行くのだが、広い場所がなければ着陸不可能なのだ」 「基地は地平線まで草原の場所がある。それと、SPEは」 「SPEは飛んで帰れますから大丈夫です」 サフィアが答えた。 「ク…サヒア、俺も鳥人王国行くぜ。このネコちゃんを死神ちゃんに届けねえとな」 エーレがコーヒーを飲みながら答えた。すると、エーレの薄汚れたポケットからブラットが出てきた。 「だからネコじゃないって!早くリンに会わせてよ。2ヶ月もあってないんだよ。戦闘機は没収されるし…」 その後もブラットはブーブー言っているが気にせずサフィアがみんなに言った。 「じゃあ、俺たちは先に帰らせてもらいます」 「SPEの皆さん、本当にありがとう」 連合軍の兵士が全員敬礼をした。 鳥人は翼を広げ、サフィアはトライブレスをフーリブレスに変え、エーレとソフィヤを乗せて空高く舞い上がった。
戦いは終わったがまだまだ安心はできない。 サフィアはさまざまな思いを心に秘めて実に1ヶ月と9日ぶりに鳥人王国の地に立った。
次回:バーダー・ダンスパーティー
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